「押切もえ」「山田ローラ」「田中美保」アスリートの妻たちが教える「勝負メシ」 美容にも役立つレシピとは

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「たった1キロ」

 山田選手は19年W杯の代表候補になりながら惜しくも出場は叶わなかった。それを機に、代表入りよりも一日でも長く現役生活を送ることに目標を切り替えた。食事の仕方も変えた。たとえば体重を必要以上に増やさないことだ。

 ローラさんが続ける。

「年を重ねると身体の衰えを補うために体重を増やして当たりを強くするという考え方があります。でも、増えた体重に関節などが耐えられなくなって故障する危険性があるんです」

 一番重い時の体重が90キロ。それに対しいまは83キロ前後。もし体重が増えたら、炭水化物を抑えつつ、野菜を多めに食べ、味付けも塩、こしょうだけにすることも。肉も脂肪分が少ないものに。

 食事面でいいと思ったことを積極的に採り入れているが、体質に合わなかったものもある。

 ネットフリックスで、ベテラン選手がベジタリアンの食事に変えて、身体が軽くなったという内容のドキュメンタリーを見るや、さっそく試してみた。しかし効果を実感できず断念した。また、他の選手に薦められた五穀米や玄米、これは消化しにくいと中断。

「食材に関してはトライアンドエラーですが、大切なのは、トレーニングの様子や体調を把握して、それに合った食材を考えて料理していくことだと思います」

 息の長い選手生活といえば、サッカーの稲本潤一選手、41歳はその代表例だ。

 W杯出場3回、アーセナルなど七つの海外クラブチームでプレーした。19年以降は、今季からJ2に昇格するSC相模原に所属する。

 長く一線で活躍できるのは食事に気を遣ったことも一因。妻でモデルの田中美保さん(38)によれば、

「シーズン中は揚げ物、マヨネーズは口にしないですね。夜、外食した翌日に体重を量って、“めっちゃ太った”と言うから、何キロ増えたの?と聞くと、たった1キロ。そんなの普通の増減じゃないの、と私は思うんですけど、毎朝毎晩体重を量って、私なんかよりも美意識が高いのだと思います(笑)」

 身体にいい物に貪欲な稲本選手はシーズン中、お酒も、好物のラーメンも控える。その代わり、関西出身ゆえ嫌いだった納豆にたくあんとネギと卵の黄身を混ぜると美味しいとわかって以来、毎日のように食べるようになった。

 だが、コンサドーレ札幌時代の16年、右膝前十字靱帯断裂で全治8カ月、17年に右膝外側半月板損傷・軟骨損傷で同5カ月と2年続けて大ケガを負う。

 そこで美保さんは、他の選手の奥さんから聞いたケガの回復にいいという「コラーゲンスープ」をつくってみた。手羽元8本、手羽中10本、長ネギの青い部分2~3本、ニンニク2~3片、ショウガ30グラム。これらをごく弱火で8時間煮込む。

「途中水を足して灰汁(あく)を取るだけで、あとは放って置けばいいので楽だし」

 と笑ってみせる。しかしその内心は「早くケガが治ってほしかった」と彼女が言う通り“祈りのスープ”。

「主人もすごく美味しいと言ってくれて。雑炊やお鍋の出汁に使ったり、主人の好きなカレーを煮るベースにしたり。残りは保存バッグに入れて冷凍すればいつでも使えるので便利です」

美容にもいいと考える

 ケガを機に、個人的に栄養士に頼んで、年に1回アドバイスを受け始めた。

 長く現役を続ける上で、良質なタンパク質を継続的に摂ることが大切だが、参考になったのは、坂田阿希子さんが著した『このひと皿でパーフェクト、パワーサラダ』という料理本。サラダだが、野菜やフルーツだけでなく肉を一緒に食べられるパワフルメニューが満載だ。柿とササミと香草のサラダや、豚バラ肉と紫キャベツのサラダ……。

「つくってみるとどれも美味しい。体重を減らしたいけどタンパク質を十分摂りたいときにぴったりです」

 さらに昨年、強い味方ができた。低温調理器“ボニーク”である。たとえばローストビーフは温度設定するだけで自動調理、3時間ほどでできあがり。

「主人も美味しいねって喜んでくれます。失敗したことない!」

 低温調理なので余分な脂肪分が落ち、旨みだけが凝縮されるのだ。しかも良質なタンパク質が低カロリーで摂取できる。鶏のハムやささみ、マグロのツナなども美味しく調理できる。

 導入して間もない鋳物ホーロー鍋「ストウブ」も、野菜料理に重宝している。熱伝導に優れ、無水で調理できるので野菜の栄養素が逃げにくい。

「私の料理の技術がまだまだ未熟なので、それを調理器具で補っている部分もありますね。夫も自分の身体に入るものをつくる道具だから、調理器具だったらなんでも買っていいよと言ってくれるんです」

 これまで3人のケースをみてきたが、いずれも品数は7品前後と多く、体調に応じてメニューを変えていくのが共通点だった。毎日のことなのでモチベーションを維持する大変さが、言葉の端々から伝わってくる。

 結婚前の美保さんは、料理は好きではなかった。結婚後、彼女もアスリートフードマイスターの資格を取って料理をつくり続けているのは、夫のためという気持ちはもちろんあるが、

「コラーゲンスープを飲むと肌の調子がすごくいい」

 と言うように、自身の健康や美容にも効果的だと思えたからである。冒頭に紹介した押切さんも同調する。

「あれつくらなきゃという自分に指令する感じではなく、食べたら健康になるし美容にもいいと考えるといいですよ。だから楽しいし、続けられるんです」

 アスリートの勝負メシは、スポーツで汗を流す子どもたちのためのレシピづくりに役立つのはもちろん、量を調整すれば一般人のヘルシー食に応用できるヒントが詰まっているのだ。

ノンフィクション・ライター 西所正道

週刊新潮 2021年2月11日号掲載

特集「アスリートの妻たりが腕まくり 夫に栄冠をもたらす『勝負メシ』『出世メシ』」より

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