「権威」に弱い日本人 ノーベル賞受賞者は感染症の専門家ではないんだけど(中川淳一郎)

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 楽天からヤンキースに移籍し、フリーエージェントになった田中将大投手が楽天復帰かも! という報道が出た日にこの原稿を書いています。メジャーリーグが昨年は60試合しか開催できなかったこともあり、各球団資金不足と言われ、有力視されたパドレスもトレードで先発投手を獲得し、田中投手との契約を見送ったようです。

 1年限定でもいいから帰ってきて欲しい! 私は切にそう思います。メジャーに行く前年は24勝0敗、防御率1・27で、日本シリーズでも快刀乱麻の大活躍。そんな田中投手が今年楽天に戻ってきたらメジャー復帰を視野に入れて登板を控えても18勝2敗、防御率1・12で沢村賞を取るのでは、なんて期待もしてしまいます(追記・本当に帰ってくるとは……)。

 それはさておき、本当に日本人って「権威」に弱いですね。その最たる四天王が「ノーベル賞受賞者」「五輪メダリスト」「メジャーリーグ経験者」「理系の偉い人」です。ノーベル賞については、感染症の専門家ではない本庶佑先生や大隅良典先生を「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)に出演させて政府批判、気が緩んだ国民への批判に利用する。同番組も「お前らは煽り過ぎだ」という批判を受け、ノーベル賞受賞者が前日にコロナに対する提言をしたことからその権威にすがったのでしょう。ただ、お二人には「お爺さんは現役を邪魔しないでくださいね」とも感じました。

 正直、お二人のように、一生安泰な方が、リモートで我々のような中年・若者をノーベル賞の権威をもって批判されるのはいかがなものでしょう。いくらがん治療に貢献されたとはいえ、がんにもなっていないこちらからすれば「オレらの行動を制限するためにノーベル賞の権威を利用するんじゃねーよ!」と思います。

 思えば、毎度ノーベル賞の受賞者に対しては、テレビのワイドショーで文系のキャスターが「我々には分からないレベルですが……」と注釈を入れたうえで「とにかくすごいんです!」とやってきた。だからこそノーベル賞受賞者という権威性は絶大で、この二人が登場した後のツイッターは政府批判や「ノーベル賞を受賞している立派な方がここまで警告しているのに日本の現状は緩み過ぎ!」といった意見が目につきました。

 ただ、今回のコロナ禍、医療関係の権威はいろいろ予想を外しまくりましたよね? 昨年4月7日の東京の緊急事態宣言にあたって、その前日の陽性者数は85人でした。で、「第3波」の最高って2447人です。

 28倍もいて、今回も同様に「緊急事態宣言」と言っている。どうせなら「MAX激ヤバ緊急事態宣言。もうお前ら家から一歩も出るな!宣言」ぐらい言ってもいい。

 とにかく「権威」の前には我々みたいな「下級国民」は無力です。だからこそ、ノーベル賞受賞者の言うことには「ははーっ!」と従わなくてはいけないし、五輪メダリストである谷亮子氏が国会議員になれる。実績がなくても、メジャーリーグ経験者ならとんでもない高額で日本のプロ野球と契約できる。

 高校を経てアメリカに渡ったマック鈴木投手って、米で通算16勝31敗、日本の最高成績は4勝9敗、防御率7・06です。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2021年2月11日号掲載

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