セリフ量と固有名詞についていけない「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」

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 老化なのか、耳がおかしいのか、セリフがなんだか聞き取りづらい。「あんだって?」と聞き返す志村けんのコント「ひとみ婆さん」と化した自分がいる。あれ、おかしいな。「相棒」のセリフはちゃんと聞こえたのに。死に神のサゲを利用して、ふむふむなるほど。あの林家正蔵のセリフですら明確に聞き取れたのだから、老化でも耳垢のせいでもない。自分の意欲と知識が足りないと気づいて、打ちのめされたのが「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」だ。

 趣味を謳歌する令和の娘に、恋愛至上主義の昭和な母親が余計な口出ししてくる過干渉な母娘モノな、と別の意味で楽しみにしていたのだが、リアルタイムで視聴した際、衝撃を受けた。「今、なんつった?」の連発。録画を観ても「あんだって?」。何度も巻き戻して再生し、ようやく聞き取れたセリフがたいした内容でもないと知ったときのひとみ婆さん、疲労困憊だよ。

 問題はふたつ。ひとつはつぶやくセリフが早口あるいは文字数が多すぎて、役者の滑舌キャパを明らかにオーバーしている点。ほぼ全員。言霊に達しておらず、表面上で滑り倒しとる感覚。笑いのポイントがそのつぶやきにあると思われるが、聞こえないから笑えない。聞こえたら聞こえたでそこまで面白くない。時間を費やした割に虚脱感しかない。

 もうひとつ。漫画やアニメに関する固有名詞がわからない。これは私の無知と無関心が問題だ。26年たずさわってきた出版業界には多少なりとも詳しいつもりだったが、日本のメインカルチャー・漫画とアニメは門外漢。私のようなオールドメディア偏愛人間がこのドラマについていけるはずがない。日テレらしく、視聴者を篩(ふるい)にかけたのね。落とされて悔しい。私は老害。でも頑張って解説してみる。

 恋愛小説の名手、作家の母を演じるのは菅野美穂。マインドと金遣いは昭和バブルのまま。大学生でオタクの娘・浜辺美波とタワーマンションのペントハウスに住むも、家計は大赤字。

 菅野は渾身の長編ミステリーを書いたものの、本は売れず、連載は打ち切りに。髪が目に刺さったイケメン編集者(細い川上洋平)からは恋愛小説を催促される。

 浜辺は母の小説のネタとなって家計を救うべく、恋愛に挑む。偶然出会ったイケメン整体師(大きい東啓介)に母も娘も恋をするが、母は対象外で戦線離脱、娘の応援に回る。ただし、娘には大学のイケメン同級生(若い岡田健史)も。彼は隠れオタクで、浜辺の絵の才能に惚れこみ、一緒に漫画を作ろうと誘ってくる。

 この母娘が何かと頼っては入り浸るのが、母の幼馴染の鯛焼き屋(幼馴染は恋愛モノに必須)。恋愛対象外の沢村一樹&中村雅俊の父子が温かい受け皿となる。

 ヤフーニュースの見出しにするなら「富裕層の母娘没落危機 秘策は恋?!」ってことで合ってる? 個人的には象印のエピソードが好きだし、シングルマザーが一人娘を「世界を生き抜く相棒」と呼ぶ関係から卒業していく様を描くのも悪くないなあと思うのだが。ほら、またひとみ婆さんが。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年2月4日号掲載

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