長瀬智也主演「俺の家の話」、笑わせて泣かせて、ホームドラマのいいとこどり

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金曜日が楽しみになる

 逆に、ちょっとしんみりさせたのは、西田が今後在宅介護を受けるために要介護度認定の簡単なテストを受けたシーン。

 足は動きづらく、車椅子が必要だが、耳は聞こえるし、子供たちに悪態もつくし、ヘルパーの戸田とは平気でイチャつく。

 頭はボケちゃいない。誰もがそう思っていたのだが、いざテストをすると、野菜の名前が出てこない。

 ほんのちょっと前に自分で書いた数字も思い出せない。判定は要介護1。本人だけでなく家族も一瞬言葉を失うシーンがあった。

 大笑いさせるコメディでもあるが、観ている人にふんわりと自分の親や家族を思い起こさせる優しさもある。

 相続にまつわるえげつないお金の話もあれば、戸田に後妻業の女疑惑が生じるサスペンス要素もある。

 これからは金曜日が楽しみになるなぁと、体温がちょっと上昇した。

 で、この原稿を書くために再度録画を観た。今度は泣けて泣けて。

「父に褒められたい」と願う息子の承認欲求に覚えがあるから。私は父を老人ホームに入れた。

 ずっと父に認められたい・褒められたいと思ってきたが、その前に父は認知症になった。

 要支援1から始まり、約2年で迅速に要介護4へと進んだので、特別養護老人ホームに入ってもらった。

 親の介護についてはいろいろと思うところがあるのだが、特に「親に対する承認欲求が介護のモチベーションになる」という点は心の底から納得がいく。

 長瀬の気持ちがよくわかる。わかりすぎて泣けてきちゃって。

長瀬が浴室で

 また、家族で介護をすると決めて、長瀬が担当させられるのは入浴介助とOMT交換だ。

 OMTとはオムツのこと。ここも湿りがちな介護の話を笑いに転化した妙があるのだが、親の排泄介助と入浴介助は精神的にはかなりの負担というか、ダメージというか、尾を引くモノがある。

 西田の身体介助をした江口と永山が口々に言う。

「重たいの。親だと思うと倍重いのよ!」

「もう人間国宝じゃない、ただの重たいジジイなんだ!」

 もちろん、肉体的にも大変だが、それ以上に「親が老いたという事実をつきつけられた重さ」もあるのだ。

 実際、長瀬が浴室で西田の足を洗うシーンがあった。おなかまわりがたっぷりした西田の姿を見て、自分の父を思い出した。

 あまり歩かない足というのはむくみがちで、爪が分厚く盛り上がる。西田の足を見て、また泣けてきた。

 コロナのせいで面会できない父に思いを寄せてしまう。

 個人的な感情を重ねすぎかもしれないが、親の介護を綺麗事だけで済ませないドラマが観たかったので、クリーンヒットだ。

 笑わせて動悸を激しくさせた後、容赦なくしんみりさせて、胸に迫る切なさを提供。心臓への負担という意味で、私にとっては「胸キュン」なドラマである。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮WEB取材班編集

2021年1月29日掲載

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