「岡本綾子」米ツアー17勝を可能にした独自のゴルフ論(小林信也)

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“投げ方”が格好いい

 調子を崩した時、どんなふうに立て直したかを訊くと、こう教えてくれた。

「自分のゴルフは、たとえビデオで見てもわからない。他人のショットマネジメントを見て考える方が楽なんです。自分のことばかり考えると、押し問答になるだけ。鏡を見ても自分の性格はわからない。霊能者や占い師が自分のことはわからないというのと同じです」

 多くの女子プロゴルファーの中で岡本綾子だけがなぜ海外で17勝もできたのか。淡々とした話の奥にその秘密を垣間見た気がした。

「ソフトボールで培った技術、身体能力、敏捷性も生きていたんでしょうね。私は動いた先のことを考えられる、着地を失敗しない」

 また面白い表現をした。

「基礎体力は必要。基礎体力イコール“持久力”、イコール“メンタル”、イコール“テクニック”です」

 つい最近、通算60勝目の優勝シーンを映像で見る機会があったという。

「優勝した時、何が格好いいかって、ウイニングボールの投げ方ですね。私にはそこしか見えない。いつ見ても、私の投げ方は格好いい」

 岡本が笑った。ゴルファーの中で、ボールを投げるのが誰よりも上手。それが岡本綾子の密かな自尊心。一見、ゴルフと関係がない。でもそれは案外、“世界のアヤコ”のゴルフを支える核心に通じているのかもしれない。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。「ナンバー」編集部等を経て独立。『長島茂雄 夢をかなえたホームラン』『高校野球が危ない!』など著書多数。

週刊新潮 2021年1月21日号掲載

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