サービス低下、高給に高額の住宅補助…NHKの元記者が「受信料は高すぎ」と思うワケ

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受信料の見直しを進めるべき

 総務省の分科会でNHKの制度改正の議論が進められているが、限られた有識者しか発言しない分科会にとどまらず、国民的議論を進めるべきだと思う。

 まずNHKが国民にどれだけ必要とされているのか、改めて全国規模の調査をしてはどうか。いまの受信料は適正と考えるか。いくらなら払ってもいいかを調査するのだ。

 ひと昔前なら、故・大橋巨泉氏が司会を務める「巨泉のこんなものいらない!?」(日本テレビ系列)という民放番組で、最初にやり玉に挙がったのがNHKだった。最近の「NHKから国民を守る党」の台頭を見ても、一定数の国民にはもはやNHKは不要と思われてしまっているのも事実だろう。

 放送法では、NHKの設立目的を「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送を行うとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うこと」と定めている。

 NHKが現在の形で設立された1950年当時は、一般家庭にほとんどテレビが普及しておらず、NHKを通じて全国に公平に質の高い番組を提供していきたいとの狙いがあった。しかし、時代は大きく変わり、全都道府県で大都市圏とほぼ同レベルで民放を視聴できるうえ、有料チャンネルや「ABEMAテレビ」など、様々な放送を楽しめるようになった。

 NHKの適正な規模と受信料を探るための本格的な議論が必要な時期ではないかと思う。例えば、NHKが伝えるべき番組を絞り込む作業も必要ではないか。

 NHKの放送は、災害報道をはじめ日々のニュース、大型番組、娯楽教養など多岐にわたる。「災害報道」は最優先として存続すべきだし、国民的人気のある紅白歌合戦や大河ドラマ、採算的に民放が扱わない福祉的要素の強い放送なども残すべきだろう。一方で、民放でも扱われるレベルの番組は整理していいのではないか。番組の当事者は死に物狂いで制作に取り組んでいると思うが、受信料をつぎ込むべきかどうかは別問題である。

 昨年5月、日本新聞協会は、番組の削減などでNHKは受信料収入を2000億円程度削減できると公表した。これが実現すれば、3分の1近く減額できることになる。また、ここには人件費の削減は踏み込まれていない。さらに本格的に削減を進めていけば相当の受信料負担を減らせると思う。

 最近、NHKの前田晃伸会長の「番組の質が落ちるから受信料削減はしない」と発言したと報じられていた。だが、NHKのニュースの質自体がすでに低下している。みずほHD会長まで務めた前田会長は富裕層に属するだろうから、NHK職員の高待遇といってもピンと来ないかもしれないが、低所得者からも義務のように集めている受信料の重みを改めて感じてほしいと思う。

 コロナ禍で倒産が相次ぎ、大量の失業者が生じてもNHK職員の給与、ボーナスは削られたとの話は聞かない。NHKは昨年5月、コロナの影響で事業継続な困難な事業者に対して受信料を免除する措置を公表したが、免除の期間はわずか2か月だけ。閉店や倒産のリスクに直面した中小企業にとっては何の助けにもならないだろう。

 最後になるが、私自身は「NHKから国民を守る党」のように「NHKをぶっ壊せ」などとは全く考えていない。災害時に国民の命を守るための緊急報道などは絶対必要だと思うからだ。

 だが、いまや国民の負担増は加速している。国の借金や社会保障費の負担などを見ても、今後も負担増は避けられない。ましてコロナ禍でさらなる負担が予測される。

 こうした中でNHKの受信料負担がこのままでいいのか。

 これまで3回にわたって書いてきた問題点ついて、デイリー新潮を通じ、NHKにコメントを求めた。まず、取材に受信料名簿が使われていた点(第1回参照のこと)、選挙取材にあたり開票所の関係者や自治体の首長から情報を得ていた点(第2回)については、

「取材・政策の過程に関わることについてはお答えしていません。取材・制作にあたっては法令に沿って行動するとともに、社会のルールに照らして適切なのかを常に自問し、律しています。受信契約者の個人情報については、その管理を徹底しています」(NHK広報局)

 持ち家のある職員にも毎月5万円の住宅手当を支給している点については、

「個々の事情によって異なり、一概には回答できません」(同)

 との回答だった。

 一介の平記者・平デスクに過ぎなかった私の考えだが、この拙い文章を読んでくれた方が、今後のNHK改革を考えるうえで参考にしていただければ、本当にありがたいと思う。

大和大介
本名非公開。大手新聞社から転職し、1997年にNHKに入局。23年間にわたり取材記者・デスクを務めた。2020年夏に退局し、現在フリー。

週刊新潮WEB取材班

2021年1月7日掲載

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