アバター店員はなぜ重宝されるのか? システム開発会社社長が語る“未来予想図”

ビジネス

  • ブックマーク

Advertisement

閃いたアイディア

 タブレットのモニターに表示されるアバター店員と会話しながら酒を呑む。高崎氏を担当したのは、バーからは相当に離れた場所にいる女子大生だったという。

「CGの女の子相手に酒を呑んで何が楽しいんだ、と最初は思っていたんです。ところが『どうやってアバターを動かしているの?』という質問に答えてもらったりして、会話が弾みました。アバターを介した声も、しばらくすると可愛く聞こえてきました。酔っ払って調子に乗って、普通なら“セクハラ”と叱られるようなことも口走ってしまったんです。ところが、相手の女子大生は『アバターを演じている役者さんのような意識というか、生身の自分に投げかけられた言葉ではない』と、どんな会話にも応じてくれました」

 興味深い一晩を過ごすと、頭に閃くものがあった。「アバターは人間の本音を聞き出すことができる。これは医療業界で絶対に役に立つ」──。

「例えば、メンタルヘルスの現場です。精神的不安などを医師に相談しなければならないとして、わざわざ病院に足を運び、初対面の医師に自分のことを包み隠さず話す必要があります。よく考えてみると、これは極めてハードルが高いはずなのです。法的な問題をクリアする必要がありますが、自宅でアバターのカウンセラーに相談できるなら、歓迎する患者さんはたくさんいるはずです」

会社は倒産の危機!?

 海外エンジニアなどの協力も得て、システムの開発に取りかかった。だが、イメージ通りのものを作るとなると、億単位の予算が必要だと分かった。

「そこで数百万の予算で、コンパクトなシステムを完成させました。AvaTalk(アバトーク)と名付け、医療機関に営業をかけました。ところが興味を示してくれるところは1つもなかったですね。『メールで相談すればいいじゃない』、『LINEやチャット機能じゃ駄目なの?』と全否定でした」

 医療現場にアバターの技術を活用するという計画は頓挫した。資金も尽きかけ、八方塞がりになった。スタッフと善後策を話し合うと、「原点を忘れてしまったのではないか」と指摘された。

「バーで気軽な楽しい思いをしたのだから、同じことをやるべきだと助言されたんです。たまたま東京の中野に見つけた物件で、なけなしの資金を使って、アバター店員が接客するバー立ち飲みスタンド”AVASTAND”をオープンしたのです」

 こちらも「NHK NEWS WEB」が1月16日に「あなたと、つながりたい。アバターで。」という記事で様子を伝えている。

《初対面の人と話すときは、話題を考えたり、相手の顔色をうかがったりして気を遣うことが多いけど、コミカルなキャラクターが相手なら、少し会話のハードルが低くなる気が…。これは体験してみないとわからない感覚かも》

「一気に取材が殺到しまして、『AvaTalk』の可能性を分かってもらうことができました。投資家さんのご支援もあり、医療関係者など“業務用”のシステムではなく、一般の方々に使ってもらおうと、億単位の費用をかけてアプリ版の開発に切り替えました。ところが、なかなかうまくいかない。そのうちに新型コロナの感染拡大で、経済が止まってしまった。私たちもAVASTANDを閉め、アプリの開発もストップせざるを得なくなった。万事休すかと思っていたら、ワコールさんなど、企業の皆さんに声をかけてもらったのです」

AIに「対話」は不可能

 HEROESが手がけている新規事業は様々あるが、そのうちの2つは極めて対照的だ。1つは美容整形の相談をアバターが行うというものだ。「生身の人間では恥ずかしくて言えないことを、まずはアバターに相談する」という当初の予想に合致したプロジェクトだと言える。

 ところが、もう1つの生活習慣病のアドバイス事業は、高崎氏も予期しなかったアバターの活用法と課題解決が含まれている。

「コロナ禍でリモートワークが増えていますが、この事業に従事する保健師さんは『テレビ電話に家の中が映るのは嫌だ』と悩んでいました。極端な話、アバターを使えば、家が散らかっていても、寝起きで髪が乱れていても、全く問題ありません。更に興味深いことに、『テレビ電話を使って生身の自分が健康指導をするより、アバターの表情や声を通じてのほうが、喋りやすいと思う』という意見が少なくないんです」

 消費者はアバターに本音を言えることは分かっていたが、それはアバターを操作する側も同じだったというわけだ。

 これまでITの世界では、文字を使ったコミュニケーションを発達させてきた。簡略化すれば、メールからSNSという流れだ。

 だがAvaTalkは、PCやスマホ上における口語によるコミュニケーションを爆発的に進化させる可能性がある。確信を得るにつれ、高崎氏は「どんなに発達したAIでも、会話を通して接客対応を行うのは無理ではないか」と考えるようになったという。

「非常に高性能なAIが開発され、人間とスムーズに会話できるようになったとしましょう。しかしAIが、どこまでお客さんに寄り添ったコミュニケーションを行えるかは疑問です。接客業の場合、お客さんは『店員さんと雑談を楽しみたい』、『ちょっとくらいはワガママを聞いてほしい』と考えているものです。それに対して、もともとAIは最適解を出すことしか考えていません。『どんな下着が似合いますか?』、『血圧を下げるため、食生活をどう改善すればいいですか?』と質問し、0・2秒で答えを提示されても、お客さんは満足しないでしょう」

 ああでもない、こうでもない、という会話を店員と繰り広げることも、買い物客の重要な楽しみの1つだ。それをAIに行わせるのは無理なようだ。

次ページ:限界集落でも活躍?

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。