元記者は見た NHKのやりすぎ「選挙取材」と莫大な「選挙取材経費」

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当確判定の「虚と実」

 こうした「当確判定第一主義」は、歪んだ「当確報道」も生み出している。2017年10月の衆議院選挙で、新潟局で選挙担当デスクを務めていたときのことだ。

 新潟県は激戦区が多く、中でも新潟県北部の新潟3区は、当選した黒岩宇洋氏(無所属・野党系)と落選した斎藤洋明氏(自民)の得票が僅か50票差という全国屈指の激戦区だった。

●衆院新潟3区選挙結果(2017年)

当選 黒岩宇洋(無所属) 9万5644票
   斎藤洋明(自民)  9万5594票
   三村誉一(無所属)   3375票

 この選挙区では、郡部に強い斎藤候補が終盤までリードを保ち、最終盤の都市部の票で黒岩候補がひっくり返す大逆転劇が展開されたが、民放2社が当確ミスを犯した。結果的にNHKが最も早く黒岩氏の当選確実を打ち出したが、この経緯が実にNHKらしかった。

「当確」と「当選」の違いは何か。投票所で貼り出される票数を「公式発表」と呼ぶが、独自情報で打ち出すのが「当確」、公式発表で当選が分かれば「当選」を報じることになる。ところが、この選挙では、黒岩氏の「当選」が決まったにもかかわらず、NHKはあえて「当選」ではなく「当確」と打ち出した。なぜか。

 簡単に説明すると、NHKでは選挙結果を報じるにあたり、2つの端末を用意している。1つは、記者が得る裏票および特別チームからの票情報をもとに「当確」を判定する端末。もう1つは、公式発表の票を入力し、「当選」を判定する端末だ。

 この選挙の際には、新潟3区の当確判定を担当したベテラン記者から「現地記者が、独自ルートから得た票の情報を送ってきます」と連絡があった。だが、すでに公式発表は出ていたので、この記者からの情報は意味がない。しかし「公式発表の票の入力は待ってくれませんか」という。このベテラン記者の思いはよく理解できた。

 現地に記者まで派遣している以上、公式発表をもとに「当選」を伝えても何の価値もない。だからこのときは、本来、行うはずの当選端末への情報入力をせず、代わりにその情報と、すでに得ていた当確端末の票状況から「当確」と判断したのだ。つまり、茶番と言われるかもしれないが、「当選」だと分かっていたのにあえて「当確」を打ち出したというわけである。

 しかも、先に「当確」と報じていた民放2社の報道が誤りであることもわかった。民放がミスを犯した選挙でNHKが当確を打てば、「さすがNHKは早くて正確だ」と声価は高まる。

 この放送で黒岩氏の事務所は蜂の巣をつついたような騒ぎとなり、劇的な瞬間として報道された。新潟放送局内のフロアも興奮に包まれ、思わずこの記者と握手を交わした。

 NHKでは、国政選挙のたびに優れた当確判定をした地方局などに「報道局長賞」が贈られる。東京の報道局には、こうした内情をすべて伝えていたが、新潟放送局も表彰された。社内の表彰など、どこもこんなものなのかもしれない。

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