共産党による「日本学術会議」私物化の歴史 半世紀前から指摘されていた問題点とは

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「学者の総意」が聞いて呆れる。日本学術会議が共産党に乗っ取られた政治的な運動体であることは、もう半世紀前に指摘され、警鐘が鳴らされていた。国内での軍事研究反対を声高に叫びながら、一方で中国の研究には協力する。こんな団体、今こそ廃止すべきではないか。(「週刊新潮」2020年12月31日・2021年1月7日号掲載の内容です)

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 日本学術会議が推薦した105人の会員候補のうち、人文・社会科学系の6人を菅義偉首相が任命しなかったことから起こった日本学術会議問題。あれから3カ月近くが経ったが、未だに議論は収まらない。

 この問題は大学の授業のテーマにもなった。鹿児島大学の渡邊弘准教授は共通科目「日本国憲法」のオンライン授業で、1年生が中心の118人に議論させた(朝日新聞11月16日付)。学生は事前に図書館の文献を借り新聞各紙の社説を読んで、首相が6人を任命しなかったことをどう考えるかを書く課題を与えられる。事前のアンケートでは、首相による任命拒否を「適切」と考えた学生53%に対し、「適切ではない」が47%とほぼ半々だった。

 議論が始まった。自分とは異なる見解に接して意見を変える学生も出てくる。授業後の感想でも「どちらの立場もなるほどという点が見つかった」「不適切と思っていたが、国民が選んだ首相の任命だから問題ないという意見を聞き、なるほどと思い、決め手があいまいになってしまった」などと書いている。

 渡邊准教授は授業の最後に「政府が会員の任命を拒否した理由を説明しなければ、国に逆らうと不利益を被ると思う人が増えて萎縮効果が広がり、基本的人権が弱くなる」と解説した。

 授業後のアンケートでは任命拒否は「適切ではない」が68%と伸び、「適切」は31%に減った。5人に1人が「適切」から「適切ではない」に意見が変わっていた。

 この授業をどう見るか。授業後のアンケートで、「適切ではない」がダブルスコアの差をつけて「適切」を上回ったことが注目される。もっとも、結果が逆であったら朝日新聞の記事にはならなかっただろう。

 レポートした朝日新聞編集委員・氏岡真弓は「『首相は理由を説明すべきだ』という意見は、どちらの立場の学生にも多かった」と書いている。これはおそらく渡邊准教授の最後のまとめの解説が利いているのであろう。この意見は、国会で繰り返される野党の質問と同じであり、多くのメディアが主張するところでもあるが、私が授業を受ける立場なら、こう反論する。

「首相は6人の候補者を任命しなかった理由を説明すべきではない。なぜなら、一国の政治の最高の地位にある首相が特別国家公務員である日本学術会議会員の特定の候補者を任命しなかった理由を述べたら、それが規範となって日本社会に恐るべき弊害が生じるからである。

 官僚のトップである各省庁の事務次官は大臣が任命するが、その際に入省同期の他の候補者を任命しなかった理由を言わなければならなくなったら、役人の世界は大混乱となる。同様に、公募形式で行われる大学教員の人事でも、教授会が個々の応募者の選に漏れた理由を言わなければならなくなったら、大学教員人事の世界は大混乱となる。どちらの場合も、理由を言われてそれに納得する者などほとんどいないだろうからだ」

 要するに、「任命しない理由を言え」というのは、ものごとの実態と道理を知らない無責任な空論であり、子供の議論なのである。菅首相は、口が裂けても理由など説明してはならず、千回質問されれば千回、判で押したように「個別の人事案件には答えられません」という答弁を繰り返すべきなのである。

大マスコミのタブー

 授業の評価に戻るなら、どんな授業でも教師の意識的・無意識的な「誘導」は避けられない。だから先に述べたことをもってこの授業の意義をすべて否定し去るつもりはない。この授業で、学生が自分とは異なる意見に触れる機会を与えられたことは、それだけで貴重な経験である。

 しかし、この授業で全く視野に入っていない問題がある。それは、学術会議と日本共産党との関わりの問題である。いま、私の手もとに日本学術会議をテーマとした実録風の一冊の本がある。この本では、学術会議形骸化論、学術会議不要論、学術会議廃止論が展開されている。

 この本の出版は、今から50年前、1970年のことである。それなのに、まるでつい最近出た本と勘違いするほど今の状況や議論にもピタリとあてはまる。1949年に設立された日本学術会議は、20年経ってもこのような批判を浴びる存在だったのだが、それからさらに半世紀が経った今も、本質的には何も変わっていないということになる。

 そしてこの本の主題は、ズバリ、日本の学者を内外に代表する機関であるはずの日本学術会議が、革命を目指す日本共産党に牛耳られ、乗っ取られてきたという問題である。日本学術会議問題とは日本共産党問題である。これこそ、地上波テレビも新聞も大学の授業もタブーにして論じないテーマなのである。

 本のタイトルは『赤い巨塔 「学者の国会」日本学術会議の内幕』。時事問題研究所編で出版元も同研究所となっている。「学者の国会」というサブタイトルは、かつて日本学術会議の210名の会員が、大学院生を含む研究者の選挙によって選ばれていたことに由来する。会員の選出方法はその後、1983年に各種学会からの推薦制に変わり、さらに2004年には、現会員が次の会員を推薦する制度に変わった。しかし、いずれの制度下でも共産党支配の実質は変わらなかった。

 日本学術会議は現在は三つの部会に大きく括られているが、本書出版時には七つの部会があった。共産党は同党の指導下にある団体を利用して各部会に候補者を立て、同党の党員や息のかかった人物を大量に当選させてきた。

 しかし、第7部の医学部会だけはいくら共産党が候補者を立て選挙運動をしても、ただの一人も当選させることができなかった。だから共産党は、医学界の闇を描いた山崎豊子の小説のタイトルを使って第7部は「白い巨塔」だと攻撃していた。それに反撃する形で、学術会議こそ共産党に乗っ取られた「赤い巨塔」ではないか、というのが本書のタイトルの由来になっている。序文には次のように、その主題がくっきりと書かれている。

「日本共産党は、各級議会と同じく合法的に利用できる唯一の機構として、この学術会議の専断をねらい、さまざまな戦術を駆使して多くの同党系列の学者を学術会議に送り込み、そうしてわが国の科学技術行政に影響力を持とうと意図しているのである」「科学者の『総意』という名の下に、実は国家の行政機構が革命運動に利用されるようでは困る」

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