中国が「クリミア併合」方式で尖閣、沖縄を支配する未来 元陸自最高幹部が警鐘

国際 中国 2021年1月3日掲載

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 古代中国の軍事思想家・孫子が説いた理想の兵法は、「戦わずして人の兵を屈する」である。現代の中国がその教えを実践に移せば、日本の領土を奪うことも朝飯前なのか。「気付いた時には負けている」という最悪のシナリオについて、元陸自最高幹部が警鐘を鳴らす。(「週刊新潮」2020年12月17日号掲載の内容です)

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〈20XX年12月、東京・秋葉原。いまやメイド喫茶が立ち並ぶ「オタクの街」だが、珍しい電気機器を扱う商店もまだ数多く残っている。その電気街では、数カ月前からとある商品が大量に売れ出していた。小型ドローンと、数万円もする高出力電波妨害器である。買っていくのは、中国からの留学生と思しき若者たち。

 翌年1月、沖縄県与那国島。台湾の東方約110キロ、日本の最西端に位置する人口約1700名のこの島は、シュモクザメに出会えるダイビングツアーで冬も観光客が多いが、この冬は特に中国人留学生の団体旅行客が増えていた。泊まる宿はたいてい、数年前から島に移住している中国人の“民泊”。彼らはダイビングには目もくれず、連日、怪しい機器を手に自衛隊駐屯地や空港・港湾の周りをうろつくのだった。また、島では数カ月前から、町長や町議会議長について真偽不明のスキャンダル情報がSNSを通じて盛んに拡散されていた。

 2月、東京・総理官邸。米宇宙軍から衝撃的な情報が日本政府にもたらされる。中国から多数のミサイルが宇宙空間に向けて発射され、比較的低い高度にある情報収集衛星が破壊された。さらに、中国の衛星が高高度にある日本の通信衛星をロボットアームで拘束、そのまま大気圏に突入し燃焼した、との情報である。

 ほぼ同時に官邸には、人工衛星機能停止の報告が次々と上がってきた。米国のGPS衛星も損害を受け、民間の航空機、船舶は運航ができなくなり、もちろんカーナビも使用不能になった上、自衛隊の衛星通信までもが不通となる。

 そんな中、中国政府の報道官が「本日未明、中国人民解放軍は祖国統一のため、台湾に対し軍事作戦を開始した。これは中国の国内問題であり、他国の干渉は許されない」と発表。国際社会は大混乱に陥った――〉

 これは、筆者がイメージした中国による「ハイブリッド戦」前哨戦のシナリオである。続きは後ほど紹介するとして、まずは中国をめぐる国際情勢について簡単に触れておきたい。

 沖縄県の尖閣諸島においては、ほぼ連日、中国海警局の船が接続水域に侵入し、今年10月には連続57時間以上も日本の領海内に留まって、あろうことか日本の漁船を追い回した。この時、付近では中国海軍のフリゲート艦とミサイル艇も即応態勢を取っていたという。もちろん日本の海上保安庁、海上自衛隊もしっかりと対応しているが、今も緊張した日々が続いている。

 緊張しているのは尖閣だけではない。中国と台湾の関係も、6月の「香港国家安全維持法」施行を機に急激に緊張の度を高めている。今や台湾住民の8割が自分を「中国人ではなく台湾人」だと考え、「中国に侵攻された時は戦う」と答えるなど独立意識が向上している。そんな中、中国の習近平・国家主席は、香港の次は台湾を狙って、“一国二制度”の終焉を図ろうとしている。

 中国はこれまで幾度となく台湾への武力侵攻をほのめかしてきた。習主席は10月にも「祖国の神聖な領土を分裂させるいかなる勢力も絶対に許さない。中国人民は必ず正面から痛撃を与える」と台湾を威嚇した。同じ10月、中国軍制服組トップの許其亮・中央軍事委員会副主席も、「受動的な戦争適応から能動的な戦争立案への態勢転換を加速する」と訴え、中国軍が積極的に戦争に関与していく方針を示唆した。中国国営の新華社通信も、これを「戦争準備の動きを強化する」と伝えている。

「いつ沖縄を返してくれる?」

 仮に、アメリカのバイデン新政権が台湾への介入度を低下させ、「台湾を攻めても米国は出てこない」と習主席が誤信した場合、中台で戦端が開かれる可能性は十分にある。

 それでも、中国と台湾の話だから日本は関係ない、と読者は思われるかもしれない。しかし、もし中台が戦争になった場合、日本にとっても対岸の火事ではなく、大きな火の粉が降り注ぐことになる。中国が台湾と戦いつつ、米国の来援を阻止するためには、沖縄県の与那国島、石垣島、宮古島が軍事的な標的になり得る。というのも、米軍が台湾周辺に戦力を展開するには、これら先島(さきしま)諸島にある自衛隊施設・空港・港湾が極めて重要な意味を持つからだ。

 そもそも中国では「尖閣のみならず、琉球全体が元々は日本の領土ではない」という声がしばしば上がっている。深層心理には、あわよくば取ってやるという気持ちもあるのだろう。筆者の台湾の友人でさえ、「日本はいつ沖縄を返してくれるのか?」と平然と聞いてきたことがある。

 とはいえ、中国が先島諸島に直接武力攻撃を仕掛ければ、直ちに日米同盟を発動させることになり、台湾正面以外にも戦火を広げることになる。こういった二正面作戦は、戦略的には避けるべきものである。従って中国は、「ハイブリッド戦」によって先島諸島の政治経済機能を混乱させ、空港・港湾・火力発電所・通信施設などの重要インフラを無力化する方法を取るだろう。

「ハイブリッド戦」とは、軍事的威圧手段と、情報操作や政治工作、経済的圧迫などの非軍事的手段を組み合わせて、戦争目的を達成するものである。その代表的な事例が、2014年のロシアによるクリミア併合だ。ロシアは、国境線に戦車や野戦砲部隊などを展開してウクライナを軍事的に威圧しつつ、フェイクニュースなどの宣伝戦やサイバー攻撃、経済的脅迫などを組み合わせて住民心理を恐怖に陥れるとともに、特殊部隊や民兵を送り込んで官公庁などを占拠。その上で住民投票を強要し、形式的には“合法的に”、ウクライナの領土であったクリミア半島を自国に併合した。

 尖閣どころか、沖縄そのものが中国に奪われる――。荒唐無稽と思われるだろうが、10年前にクリミアがロシア領になると考えていたウクライナ人はいまい。

 筆者は14年2月3日、陸上幕僚長としてロシア地上軍司令官から公式招待を受け、モスクワに赴いた。だが翌朝、司令部を訪問した私を迎えたのは司令官“代理”の地上軍ナンバー2で、「地上軍司令官は、ソチに行っており会えない」と言う(2月7日からソチ五輪が開催)。「公式招待した本人が不在とは、国際儀礼に悖(もと)る」との怒りを抑えつつ、予定どおりの日程を終え帰国した。

 そして、ソチ五輪閉会4日後の2月27日、ロシアはクリミア侵攻を開始したのだ。その報道を見た瞬間、私はロシアに欺かれていたことに気付くとともに、平和の祭典を他国侵攻の隠れ蓑にする卑劣さ、自分の公式訪問が作戦に利用されていたことへの悔しさを覚え、更にはロシアの強(したた)かさに学ばされるという極めて気分の悪い複雑な思いに陥った。

 台湾の主要紙が、「中国軍がロシアのクリミア併合を模範として、台湾に親中政権を樹立しようと画策している」と報じたこともある。中国がロシアによるハイブリッド戦の応用を考えているのは間違いない。その具体的な手法について、冒頭のシナリオの続きを紹介しよう。

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