総務省と通信事業者の癒着、族議員…誰が「スマホ料金」値下げを妨害しているのか【山田 明×原 英史】

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鉄のトライアングル

 通信・放送業界は、政府(総務省)が管理する電波を使う許認可事業の業界です。

 私は規制改革全般に関わって仕事することが多かったのですが、既得権者の反対でなかなか改革が進まない事態を長年経験してきました。それは著書の『国家の怠慢』(高橋洋一氏との共著)や『岩盤規制』に詳しく書きましたが、そのとき基本的な構図として言っていたのが、いろいろな分野で役所と業界と族議員が鉄のトライアングルを構成し、その結果、業界の寡占状態などが生まれ、競争が生じずにサービスが悪くなり値段が上がる、といったことです。

 外側からみて通信業界もそのひとつと思っていましたが、山田さんの本を読んで、やはりそうだったのかと膝を打ちました。たとえば、本の中には個人名こそ出ていないものの、旧郵政省・総務省からNTTグループに天下った役人たちの一覧表、どの官職の人間がどのポストに就いたのかが出てきます。要するに、役人にとって通信会社は天下り先ですし、通信会社にとって総務省はメシの種である電波を与えてくれる存在。天下り官僚は政治へのロビイングも担い、トライアングルの結節点になる。そんな構図だから、政策決定が歪み、国民、消費者の利益が損なわれるのです。

山田 あの一覧表こそまさに日本の通信事業を象徴しているものではないかと思うんです。総務省が電波の配分の利権を持っているから、それ欲しさにNTTはすり寄る。そこでNTTと総務省は手を握ります。

 そうすると、規制をするところと規制をされるところの境がなくなる。昔からNTTと総務省の関係は、立案をNTTがやって承認のほうだけを総務省が担当している、と言われていました。その関係をとにかく一回整理しないといけません。

 この30年ほど、世界の通信業界ではさまざまな革新が起こり、GAFA等のネット関連企業が世界経済を席巻しました。しかし、自分たちの既得権益を守ることに汲々とし、消費者の利益に思いが至らなければ、イノベーションなど起こりようがありません。

山田 今から20年ほど前のことになりますが、NTTグループのNTTドコモとNTTコミュニケーションズ(コム)は、海外の通信会社を買収しようと、それぞれ数千億円から兆円単位の巨額の投資を行い、大失敗をしたことがありました。

 ところがその後、驚くなかれ、NTTは当時の責任者を国の叙勲制度の対象者として内閣に推薦したのです。在任中、累計で1兆5千億円の損失をNTTグループにもたらしたドコモの立川敬二社長は2017年に、同じく8千億円の損失をもたらしたコムの鈴木正誠社長は2019年に、それぞれ旭日重光章を授与されました。グローバル社会で戦えない経営者がその責を問われないのですから、まともなビジネスが育つわけがありません。

角栄が作った放送利権

 天下りと言えば、放送業界も似たようなものですね。

山田 総務省と放送業界の関係の深さは、通信業界の比ではありません。それは、かつて田中角栄が作った放送の県域免許制度が生み出した、放送利権の世界です。

 電波は県境に関係なく飛んでいきますが、免許は県域を対象に与えられます。そのため東京のキー局で制作した番組を全国にながすには、県域免許を持っているローカル局にネットワーク料を支払う必要があります。東京から全国のローカル局に1500億円ともいわれる資金が流れ、ゾンビ企業予備軍と言われるローカル局を生き長らえさせてきた構造です。

 県域免許の対象となる放送はテレビ以外にAMやFMのラジオもあります。それが日本中にある。膨大な数です。調べてみると、電波の認可権限があるところはすべて天下りの対象になる、ということを長年やってきているわけです。

 電波の開放を進めれば放送利権にメスを入れざるを得なくなります。地方創生は菅政権の主要政策ですが、地方銀行の改革と並んでローカル放送局の改革も避けて通れないでしょう。

 菅政権がこうした闇に切り込めるかどうか。菅首相と武田総務大臣に加え、もう一人キーパーソンになる可能性があるのが河野太郎行革・規制改革担当大臣です。河野大臣は以前から電波に対して問題意識を持っている。自民党の行政改革推進本部の本部長だった2017年には電波改革の提言も出しています。放送局以外に行政機関も帯域をたくさん持っているのですが、これら帯域を貸借対照表のように一括管理する、有効利用しているかどうかの監視体制を再構築するなど、相当踏み込んだ内容でした。当時の総務省も提言を受け入れたはずなのですが、3年経ってみたらほとんど実施されていません。

 政府の規制改革推進会議での議論も同様です。総務省を何とか説得して閣議決定まで持ち込んでも、そのあと放置されていることが多い。ほかの分野だったらマスコミが「閣議決定違反だ」と問題にするところ、電波の話ではマスコミは一切報じてくれません。

山田 テレビ局が囲い込む「プラチナバンド」を取り上げ、電波の開放まで行きつくのは大変なことですが、私は菅総理には期待しています。まずは携帯料金値下げをやって大部分の日本のユーザーが恩恵を被る成果を上げ、さらに改革を進めてほしいと願っています。

 料金を下げたあとの次のステップは、開放によってさらにプラスの効果を生み出すことです。新たに自由に使える帯域が出てくれば、5Gなど新しい用途で使ったり、いろんなアプリケーションを日本が世界に先駆けて作っていけたりする気運にもなりえます。その意味では、伸びしろ、つまり未使用のまま眠っている電波がある日本は今、世界で最も恵まれている状況なのかもしれません。

 「携帯料金引下げ」と並んで、菅政権のもうひとつの看板政策が「デジタル庁」です。これからのデジタル社会を支える基盤は電波。二つの表看板の裏にある最重要課題が「電波」だと思います。内閣の布陣は、菅総理、武田大臣、河野大臣と、改革を進めるためこれ以上はないぐらいの体制です。電波改革を是非とも前進させてほしいものです。

山田 明(やまだあきら)
1950年愛知県生まれ。経営評論家。NTTを経て、複数のグループ会社役員の他、国際通信経済研究所常務理事を務めた。著書に『スマホ料金はなぜ高いのか』

原 英史(はらえいじ)
1966年生まれ。経産省出身。政府の規制改革関連会議に長く関わる。著書に『岩盤規制 誰が成長を阻むのか』『国家の怠慢』(高橋洋一氏との共著)など。

週刊新潮 2020年12月24日号掲載

特別対談 山田 明 VS. 原 英史 「テレビ・新聞はひた隠し!『スマホ料金』を劇的に下げる最善の方法」より

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