「東京ヴェルディ」経営再建で大モメ スポンサーとの“不平等条約”にV社長が泣いた

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弁護士も呆れる“不平等条約”

 東京Vに一体、何が起きているのだろうか。関係者に聞いた。

「社長の言った通り、今期はコロナ禍のため無観客試合や観客制限となり、5億円の債務超過が見込まれています。来期も同様で、今期と来期合わせて10億円の赤字となりそうなんです。そこで出資企業を探しており、乗り気になっている会社も出てきているのですが、10年前に結んだ契約のために前に進まないのです」

 10年前の契約先こそ、横断幕で名指しされたゼビオ社である。大型スポーツ用品店“スーパースポーツゼビオ”を全国に展開し、“ヴィクトリア”やアウトドア用品の“エルブレス”などを子会社に持つスポーツ用品大手だ。

「09年に日本テレビが東京Vの株式を手放したことで、読売グループと縁が切れました。10年には、経営権をJリーグが取得。Jリーグ事務局長だった羽生さんが経営再建のため、東京V社長に就任し、新たにスポンサー契約を結んだ相手がゼビオでした」

 当時の記事にはこうある。

〈深刻な経営難でクラブ消滅の危機に直面していたJ2東京Vの来期存続が19日、事実上決定した。東京Vはこの日、超大型スポーツ専門店「ゼビオドーム」などを展開するゼビオ(本社・福島県郡山市、諸橋友良社長)と5年間の包括メーンスポンサー契約を結んだことを電撃発表。(中略)スポンサー料は1年8000万円の5年契約。総額4億円の資金確保が決まったことで、東京Vの存続が事実上決まった。〉(スポーツニッポン:10年10月20日付)

「実はこの時の契約は、総額4億円は正しいのですが、スポンサー料は5年契約で3億5000万円。残りの5000万円は、東京Vの過半数の株式を取得できる新株予約権に当てられました」

 スポーツ用品大手だけに、プロサッカーチームを手に入れようとしたわけか。中でも、Jリーグ創設から2年連続で年間王者を獲得し、キングカズこと三浦知良やラモス瑠偉、ビスマルクらを擁した川崎ヴェルディの流れをくむ名門チームなら価値はあるはずだ。

「ところが、違ったんです。ゼビオは株を取得することはせず、事実上の経営権を握ったのです」

 金も出さずに、新株予約権だけで経営権を握ることなどできるのだろうか。

「ゼビオは新株予約権に“希薄化防止条項”という条件をつけました。これは東京Vがゼビオ以外に第三者割当増資を行うなどして、ゼビオの潜在的な議決比率が減った場合に議決比率が維持されるように、新たな新株予約権を無償でゼビオに発行しなければならないという取り決めなのです」

 つまり、他に大株主が現れたとしても、ゼビオの持ち株は常に過半数になるよう調整されるということだ。しかも実質的には金は払う必要もない。なんだか日本史の教科書に出てきた不平等条約のようで……。

「逆に言えば、新たな企業がいくら出資しようとも筆頭株主にはなれず、経営権は握れません。そのため、出資したくても二の足を踏んでしまうのです。違法行為ではないものの、M&Aが専門の弁護士も呆れるほどの“不平等条約”だそうです」

 なぜ、東京Vはそんな契約を結んだのだろうか。

「スポーツ用品の大手ですから願ってもない相手だと考えたし、良識を期待したのだと思います。まかり間違って再び経営難に陥った場合は、子会社にしてもらっても構わないと。まさか、10年以上も新株予約権をそのまま持ち続けられるとは思わなかったのでしょう」

 その経営難がまさに今なのである。

「東京Vはゼビオに何度も働きかけました。しかしまとまる気配はありません」

 11月、東京Vはゼビオに対し、文書で2択を迫った。

●新株予約権を行使して東京Vを子会社化し、東京Vの経営に対し責任を持つ。
●新株予約権の行使を放棄、もしくは新規の出資者に譲渡する。

「ゼビオからの回答は、新株予約権の放棄も、譲渡も行う意図は一切ないというものでした。ただし、経営体制の見直しが行われるのであれば、資金支援を検討する用意がある、と」

 その後、ゼビオ社において、東京V経営陣との話し合いがもたれた。

「ゼビオは新株予約権をすべて行使した上で、東京Vを子会社化する意向を示しました。加えて、現在の役員は経営責任を取って辞任すること、役員が持つ東京V株は1円で譲渡することを要求しました。東京V経営陣は話を持ち帰り、検討した結果、ゼビオ案を受け入れる意向であることを通知しました」

 羽生社長の「社長の座を降りることにまったく躊躇はございません」という発言は本心のようだ。

「ところが、ゼビオは前言を撤回。新株予約権の全部行使は行わないと通知してきました」

 いきなり、やっぱりやーめた、である。

「ゼビオは、すでに東京Vの他の大株主から再建案について同意を得たので、予約権の11%のみを行使し、8800万円の資本を入れる。その代わり、社長以下4名の取締役は辞任せよと迫っています。ところが、大株主に聞いてみると、すべてがゼビオ案に賛成したわけではなかったことがわかったのです。もちろん、ゼビオ側には虚偽ではないかと指摘しました」

 12月に入ると、東京Vとゼビオとの再協議が行われた。新株予約券の11%行使、8800万円の資本注入などは変わらず、新たに東京Vのスクール事業を5億円で子会社化するという提案だった。

「東京Vは“育成のヴェルディ”といわれ、スクール事業は重要な収益の柱なのです。それを奪われたら、ますます経営が成り立ちません。ゼビオは債務超過に陥る東京Vに対し、責任を持って経営するつもりがないということでしょう」

 その数日後に、ゼビオは10年以上放置していた新株予約権の11%を行使し、ようやく東京Vの株主(第4位)となった。が、すでに遅かったかもしれない。

 14日から16日にかけて、スポーツ紙などに、東京Vが資金難であること、さらに、新たな投資企業を探して目途は立ったものの、ゼビオが反対し対立していることが報じられた。

 それが冒頭の横断幕へと繋がったのだ。

「東京Vは、クラウドファンディングで3000万円を目標に資金を募った。結果、2786万6560円も集まったのは、ありがたかったことでしょう。ちなみに、東京Vのホームスタジアムは味の素スタジアムですが、目の前にはゼビオの店舗があります。なぜか店にはFC東京の大きなポスターが貼ってありますけど……」

 東京Vは臨時株主総会を招集することを決議。27日に開催されることが決定し、そこでは新たな投資企業への増資、それに伴うゼビオへの新株予約権の発行が議案に上るという。果たして、どうなる?

週刊新潮WEB取材班

2020年12月24日掲載

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