「ジョブズ」が我が子のスマホ利用を禁じた理由 学習への悪影響、うつのリスクも

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置いているだけで…

 学習面への影響はどうだろうか。

 まずは学習に最も必要な集中力について。スマホを持っている800人を対象に集中力を要する問題をやらせるという実験がある。「スマホを別室に置いてきた」被験者と「スマホをサイレントモードにしてポケットに入れていた」被験者を比較すると、前者の方が成績がよかったのだ。

 日本でも類似の実験が行われている。モニター上に隠された文字を素早くいくつも見つけ出すという課題をやらせてみる。被験者の半分は、自分のではないスマホをモニターの横に置き、触ってはいけないことになっていた。残りの半分は、デスクの上に小さなノートを置いた。結果はノートを与えられた被験者の方が課題をよく解けていた。

 ただポケットに入れているだけ、置いているだけで、スマホは集中力を奪うのだ。

 問題はスマホばかりではない。デジタル機器全般が記憶力に影響を与えているという研究もある。

「二つの大学生のグループに同じ講義を聴かせた。

 片方のグループは自分のパソコンを持参し、もう片方は禁止されていた。講義の直後、パソコンを使った学生たちは、もう一方のグループほど講義の内容を覚えていなかった」

 あるいは米国のこんな研究も。

「一部の学生には紙とペン、残りの学生にはパソコンでノートを取らせた。すると、紙に書いた学生の方が講義の内容をよく理解していた。詳細を多数覚えていたわけではないが、趣旨をよりよく理解できていた」

 内容理解にまで差が出るのだ。

 ある研究チームはスマホが学習に及ぼす影響について100件近くの調査を行い、最終的に以下のような結論を出している。子どもも大人も、

「スマホを使いながらの学習だと、複数のメカニズムが妨げられる」

 こうした結論を受けて、英国ではロンドンなどのいくつかの学校で、スマホの使用を禁止した。生徒は朝スマホを学校に預け、下校時に返してもらうのである。

 その結果はどうだったか。成績が上がったのだ。

 この調査を行った研究者の試算では、9年生(日本の中学3年生)は1年間で1週間長く学校に通ったのに相当するほどの学習効果があったという。特に成績を伸ばしたのは成績下位の生徒たちだった。

 勉強するときに紙を使うこと自体にもメリットがあるのだろうとハンセン氏は指摘する。

 ノルウェーの研究者は小学校高学年のグループの半数に紙の書籍で短編小説を読ませ、残りの半分にはタブレット端末で読ませた。その結果、紙の書籍で読んだグループの方が内容をよく覚えていた。同じ小説を読んだのに、だ。

子どもがどんどんバカになる

 こうして見ると、教育のデジタル化は安易に進めるべきではないのがよくわかる。とはいえ、今さらスマホとPCを扱えない国民を育てよというのも時代錯誤だろう。9歳の娘を持つ国際政治学者の三浦瑠麗氏は言う。

「デジタル・デバイスを使いこなすことは現代においては必要不可欠ですから、私も娘にiPadを学習用に与えています。ただ、それはあくまで通信教育用。SNSやアプリを使うには準備が必要だと思うのです。ネットリテラシーの習得ももちろんですが、もっと重要なのは子どもが“我慢できる能力”を持っているかどうか。情報に対する欲求は物欲に近いと私は思っています。幼児期にその物欲との付き合い方ができていれば、自分にとって必要なこととそうでないことを見分け、情報に溺れることもないのではないでしょうか」

 実は前出の竹内氏や茂木氏、そしてハンセン氏も同様のことを言っている。

 衝動を抑制し、報酬を先延ばしにする機能を持つ脳の前頭葉という部位は、脳の中で最も遅く発達する。25歳~30歳になるまでは完全に発達せず、10代ではまだまだ未熟であるために、脳の報酬システムが命じるままにスマホに耽溺してしまうのである。だからこそ、この「報酬を先延ばしにする能力」、平たくいえば我慢をする能力が人生を左右するほどに重要なのだ。

 すぐに新しい刺激が手に入るスマホをずっと手元に置いていると、この能力は育たない。子どもは欲望の赴くままに刺激に溺れ、どんどんバカになってしまうのだ。

 では我々と、子どもたちはどうすればいいのか。ハンセン氏は脅かす一方ではなく、同書では数多くの提案をしている。いわば「スマホ脳」からの脱出法だ。すべては紹介できないが、「スマホの表示をモノクロに」「スマホを寝室に置かない」「寝る直前に仕事のメールを開かない」等は、誰でもすぐにでも実行できるアドバイスかもしれない。

 また、大人はもちろんのこと、子どもにとって有効なのは運動のようだ。毎日1時間程度であっても、運動をしている子どもは記憶力や集中力などのテストで好成績を収めたという結果が報告されている。

 まずは自身の、そして子どもたちのスクリーンタイムをチェックすることから始めてみてはいかがだろうか。

週刊新潮 2020年12月17日号掲載

特集「『ジョブズ』『ゲイツ』は我が子に使用を禁じた! 子どもに蔓延する病『スマホ脳』」より

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