「桜を見る会」捜査の行方は 安倍前総理は不起訴?

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“筋のいい事件”

 検察担当の記者が言う。

「特捜部は現在、吉川貴盛元農水大臣を受託収賄容疑で立件することを目指しています。吉川氏には、広島県に本社を置く鶏卵生産大手“アキタフーズ”の秋田善祺・元代表(87)から、計500万円の現金を受け取った疑いがある。金銭授受の時期は吉川氏が大臣在任中の2018年から19年にかけて。その当時、OIE(国際獣疫事務局)はアニマルウェルフェア(動物福祉)を重視した飼育基準の作成を進めていました。ただ、ケージでの飼育が9割を占める日本では、この基準に従うと莫大な負担増が見込まれた。そこで、元代表が吉川氏に便宜を図ってもらえるよう“請託”した、というわけです」

 結果、農水省の反発もあって、OIEの基準案から止まり木や巣箱の設置についての義務化は見送られた。

「特捜部はアキタの元代表から現金提供について言質を取っている。ただ、金銭の授受は複数回にわたるため、具体的にどのカネが請託と結びついているのか立証が難しい。吉川氏が聴取前に入院して逃げてしまったこともあり、捜査は少々難航しています」(同)

 とはいえ、元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏に言わせると、

「桜を見る会の疑惑と比べれば、こちらは“筋のいい事件”だと感じます。吉川氏は農水大臣だったので職務権限の有無については問題がなく、現金を贈った側も事実を認めている。特捜部は立件に向け、かなり力を入れて捜査に当たっているはずで、来年の通常国会が始まる1月18日までには強制捜査に踏み切るのではないか。国会が始まると逮捕許諾請求が必要になりますからね。おそらく特捜部は、河井夫妻の事件に絡んだ捜索で、それなりの証拠を掴んでいるのでしょう」

“河井夫妻”とは、公選法違反の罪に問われた元法相の河井克行被告と、妻の案里被告のことだ。

 特捜部は今年7月、この事件の関係先として、広島のアキタフーズ本社を家宅捜索している。

 地元の記者によれば、

「すでに河井夫妻の逮捕後でしたが、アキタの社員からの情報提供を受けてガサ入れが敢行されました。その際に幹部社員が記した裏金に関するメモが見つかり、そこに西川公也元農水相ら複数の農水族議員の名前があったのです」

 その時点で“農水”人脈に絡む捜査を念頭に置いていたものと考えられる。

 地元の政界関係者は、

「アキタが自民党議員とのパイプを作ったのは、第2次安倍政権が発足した12年以降。なかでも、地元選出の克行被告との関係は深く、彼が吉川氏をアキタに紹介したと聞いています」

 実際、克行被告が支部長を務めた「自由民主党広島県第3選挙区支部」の収支報告書(要旨)には“アキタ”の文字が散見される。

 献金の総額は13年から18年までの6年間で、実に1866万円にのぼる。

「アキタへのガサ入れ後には、内閣官房参与を辞任する意向を今月8日に示した西川公也氏や本川一善元農水次官、大野高志元畜産部長らが、同社の所有する高級クルーザーで接待を受けていたことが発覚しました。本川氏は農水省の食肉鶏卵課長だった2000年代前半からアキタと付き合いがあり、業者側に便宜を図ってきたと目されています」(同)

「ガサ」を巡る綱引き

 こうした背景まで明らかになれば“毒卵”を食らった吉川元農水相の逮捕は時間の問題のように映る。

「当然ながら、法務検察トップの林眞琴検事総長は立件を急ぎたい構えです。吉川氏は、菅総理の権力基盤と呼べる二階派で事務総長を務め、先の総裁選でも菅選対の事務局長だった人物。それでも、菅総理が特捜部に捜査を進めさせたのは、“桜”の件をしゃんしゃんで済ませる見返りという点に加え、安倍氏への捜査を認めながら、自分の身内について突っぱねては党内からの批判を免れないと考えたからでしょう。一方、安倍政権の“守護神”と呼ばれた黒川弘務東京高検検事長(当時)が賭けマージャン問題で辞職して以降、官邸が検察に対し、あからさまには影響力を行使しづらくなっているのも事実です」(政治部デスク)

 だが、「桜」、「卵」と立て続けに永田町をターゲットにしてきた検察側にも不安材料はある。

 先の検察担当記者によれば、新旧総理と同じく、法務省の“赤レンガ組”と“現場組”の間にもすきま風が吹いているという。

「実は、辻裕教(ひろゆき)事務次官や、伊藤栄二官房長といった法務省の幹部には、吉川氏の事案についてきちんとした情報が上がっていなかった。一連の黒川問題の前には、検察側も法務省サイドと捜査情報を共有していたのですが、このところ、両者の間に深い溝ができてしまっている。とりわけ、林検事総長は辻次官を全く信用していないのです」

 その原因は安倍政権時代に遡る。先代の稲田伸夫検事総長は、林氏を後任と考えていた。しかし、安倍官邸は“守護神”として信頼を寄せる黒川氏が後釜となることを望んだ。

 高検検事長の定年は63歳なので、慣例通り、稲田氏が検事総長を定年の65歳まで2年続けると、誕生日の都合で黒川氏は高検検事長のまま定年退職せざるを得ない。そのため、稲田氏は通常よりも早い段階で退任するよう安倍官邸から迫られたが、本人がそれを拒否して検事総長を続投。

「そこで、官邸の意向を受けた辻次官が、黒川氏の定年延長という奇策に打って出ました。黒川氏と林氏は司法修習同期。黒川氏が検事総長になれば林氏はその座に就くことができなくなる。結果的に、賭けマージャン問題によって黒川氏は自滅し、検事総長となった林氏ですが、官邸と一緒になって自分を外そうとした辻次官を許していません。遺恨は“桜”の捜査にも影を落としています。法務省側は“処分方針も決まっているのだから安倍事務所への捜索は必要ない”という立場。ガサ入れを既定路線とする検察側との綱引きが続いています」(同)

 季節外れの「桜」が狂い咲き、最終局面に差し掛かる一方、「卵」を巡る捜査はまだ始まったばかり。

 官邸と法務省を睨みながら、捲土重来を期する特捜部の暗闘は続く。

週刊新潮 2020年12月17日号掲載

特集「検察と官邸が手を握って『安倍しゃんしゃん捜査』」より

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