企業経営者が「GoToトラベル」で大塚家具を思い浮かべてしまう理由

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安心の源泉

 国民に安心を届けるためには、危機管理の基本に立ち返る必要がある。基本とは「予防の危機管理と事後の危機管理の両立」だ。

 当然のことだが、感染症の予防の切り札はマスクや消毒に加えてワクチンだ。そして、事後の切り札は治療薬なのだ。この両方について、政府も新型コロナ分科会も十分な情報開示を行っていない。すなわち、国民に先が見えるような情報の開示が不足しているのだ。欧米ではワクチンを承認する会議の様子まで、くまなく公開したりもしている。国民に知らせるリスクよりも、知らせないことによる疑心暗鬼のリスクを防ぐために。

 今のままでは、おそらく多くの日本の若い世代の人達は、ワクチン接種を敬遠するだろう。感染しても重症化のリスクが低い一方で、接種による副反応の不安が払拭されていないからだ。今後、報道される海外における副反応の報道も、ごく少数であっても不安心理を高めてしまうだろう。したがって、集団免疫を獲得する時期が、日本は先進国の中で最後となってしまうに違いない。英国の医療調査会社エアフィニティーも指摘しているように。また、安心には治療薬の情報開示も必要だ。トランプ大統領を回復させたモノクローナル抗体薬などについても、横浜市立大学が開発に成功したことなどを情報開示すべきだろう。たとえ途上の情報であっても、安心にはつながるのだから。

 12月11日、菅総理はニコニコ生放送で「ガースーです」と照れた笑みを浮かべながら登場した。しかし、“ガースー”というネット上のニックネームで満足せずに、“サースガ”と呼ばれるような危機対応をやって欲しいものだ。そのために必要な、危機管理の処方箋を示しておきたい。

 そもそも感染症の危機管理は、突発的に起きる地震や津波と比べたら、それほど難しくはないと言えよう。だが新型コロナには、“温度差”という難点がある。それは、年齢における重症化のリスクや、性別における後遺症確率の違いによって起きる。だから、国民の意識を統一することが難しいのだ。現に、政府が「勝負の3週間」を掲げた最後の週末(12日・13日)は、全国の繁華街のうち6~7割で前週よりも人出が増加してしまった(ドコモ調査)。これは、情報開示の仕方の悪さと不足が一因と言わざるを得ないだろう。改善すべきである。

 そして、大きな危機に遭遇した企業も同じだが、業績(国なら経済)を回復させるには、ニンジンよりも安心感というモチベーションのほうが有効だ。ニンジンの効果は永続的ではないからである。また、有事におけるトップには、“頑固一徹”よりも“臨機応変”が求められる。サバイバルの原野を想像していただければ自明の理だ。柔軟で素早い判断ができなければ、死の彷徨に陥ってしまうのだから。肝に銘じていただきたいものである。

 最後に、このコロナ危機に取り組み概念も示しておきたい。菅政権の「経済と感染抑止の両立」という概念は、残念ながら実現不可能だろう。この対応はゼロサムを念頭に置かなければならないのだから。すなわち経済と感染抑止の合計を100として、対策の比率を状況に応じて変えていくしかないのだ。「この時期は感染抑止対策が6割で、経済対策は4割」というように。企業を再建する時にも、急激な負債の削減と大規模な先行投資は両立しない。時々の最適なバランスを目指すしかないのである。それと同じだ。

 11月21日の「報道特集」(TBS)の冒頭で、金平茂紀キャスターは次のように語った。「ある財界人が“馬鹿な大将、敵より怖い”と語ったが、(中略)ダメな政府はウィルスよりも有害だと言いたくなります」と。おそらく、北洋銀行の元頭取の武井正直(故人)の言葉を引用したのだろう。そんな言葉が繰り返されないように、菅総理には頑張っていただきたい。

田中辰巳(たなか・たつみ)
1953年愛知県生まれ。メーカー勤務を経てリクルートに入社。「リクルート事件」の渦中で業務部長等を歴任。97年に危機管理コンサルティング会社「リスク・ヘッジ」を設立。著書に『企業危機管理実戦論』などがある。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月15日掲載

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