巨人、FAの人的補償で放出されたベテラン選手の悲劇、史上初の「江藤智」は困惑

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 日本シリーズでソフトバンクに敗れ、来季の巻き返しを期す原巨人が、井納翔一、梶谷隆幸(いずれもDeNA)の両獲りに動くなど、FA戦線の主役を演じている。毎年のようにFA補強を繰り返す巨人だが、他球団の主力を次々に引き抜く一方で、これまで人的補償で流出した選手も計13人に上る。

 人的補償は、28人のプロテクトを外れた選手に限定されるため、通常は1軍半クラスの中堅選手で落ち着くパターンが多い。だが、巨大戦力を誇る巨人の場合は、成長途上の若手を優先してプロテクトした結果、実績十分のベテラン選手がプロテクト漏れするケースも相次いでいる。そんな「まさかオレが!」の悲劇を振り返ってみよう。

 最初の大物選手は、2006年、西武の守護神・豊田清の人的補償となった江藤智だ。00年に広島からFA移籍し、3番打者として長嶋巨人の6年ぶり日本一に貢献した江藤も、前年は代打がほとんどで、スタメン出場はわずか8試合。打率.172、0本塁打と、巨人移籍後で最低の成績に終わった。オフには野球協約の限度を越える40パーセントダウンの大減俸。35歳という年齢を考えると、プロテクト漏れもやむを得なかったと言える。

 当初、西武側は緊縮財政のため、人的補償を選ばず、豊田の金銭補償を要求する方針だったが、「右の大砲として期待している。まだ老け込む年齢ではない。若いチームなので、彼の経験や功績は良い刺激となる」と江藤を高く評価した伊東勤監督が獲得を強く要望。回答期限ギリギリの1月6日に移籍が決まった。FA移籍した選手が人的補償になるのは、日本球界で史上初の出来事だった。

 青天の霹靂とも言うべきトレード通告に、江藤は「気持ちの整理がつかない」と戸惑ったが、決まった以上、どうにもならない。「向こう(西武)で頑張る」と気持ちを切り替えた。

 移籍1年目は出場52試合で打率.242、5本塁打と、それほど活躍できなかったものの、チーム最年長で人柄の良さもあって、兄貴分として若手に自らの豊富な経験を伝えた。08年には代打の切り札やブラゼル故障時の4番として7本塁打を放ち、4年ぶりの日本一に貢献している。

 翌07年、今度は通算215勝左腕・工藤公康が、横浜・門倉健の人的補償選手になった。43歳という年齢もあり、リストアップされる可能性は低いなどの理由からプロテクト漏れしたようだが、横浜・大矢明彦監督は「門倉の穴をどう埋めるかが一番の課題だったので、ローテーションに入ってくれればプラスになる。計算できる投手だし、年齢はあまり関係ない」と工藤獲りに動く。98年以来、優勝から遠ざかっている横浜は、V経験が豊富な工藤を若手投手陣の手本にしたいという思惑もあった。

 00年にダイエーからFA移籍してきたときは、VIP待遇で迎えられたのに、一転、人的補償の悲哀を味わうことになった工藤だが、「こんなおじさんでも、ローテーションの一員として期待してくれているのであれば、うれしいこと。(横浜は)伸び盛りの選手が多い。お役に立てることであれば、何でも聞いてほしい」と大人の対応を見せた。移籍1年目は、7月24日の巨人戦で先発勝利を挙げ、史上初の全13球団(近鉄を含む)勝利を記録するなど、前年の3勝を上回る7勝を挙げている。

 FA史に残る衝撃の“ダブル流出劇”が起きたのが19年。西武・炭谷銀仁朗の人的補償として内海哲也、広島・丸佳浩の人的補償として長野久義が相次いでチームを去った。

 内海は00年のドラフトでオリックスに1位指名されながら、巨人入りを熱望し、社会人経由で3年後に入団。長野も日本ハム、ロッテの指名を蹴り、三度目の正直で巨人入りの夢をはたした。2人とも年齢的にピークを過ぎていたとはいえ、入団のいきさつを知るファンは「残酷な仕打ち」と眉をひそめた。

 15年に高卒2年目の奥村展征を相川亮二の人的補償としてヤクルトに取られた巨人は、この苦い教訓などから、若手優先のプロテクトを一層強化した結果、ベテランの内海と長野が割りを食ったとも言える。

 前出の江藤や工藤、12年の藤井秀悟(横浜・村田修一の人的補償)などのケースとは異なり、生え抜きの主力選手がプロテクト漏れしていたという事実も、世間を驚かせた。

 だが、内海は「日本一のファンに支えられた巨人での15年間は最高の思い出。最高のチームで最多勝のタイトルを獲得したり、選手会長を務めたりしてきたことは、野球人の誇り。新しいチームでも気持ちを新たに頑張ります」と優等生のコメントで移籍を了承。一方、長野は「3連覇している強い広島カープに選んでいただけたことは選手冥利に尽きます。自分のことを必要としていただけるのは光栄なことで、少しでもチームの勝利に貢献できるよう精一杯頑張ります。9年間応援してくださったジャイアンツファンの皆様のお蔭で苦しいことも乗り越えることができました。ありがとうございました」とファンを泣かせるようなコメントを残している。

 内海は故障に苦しみながらも、今年9月2日のオリックス戦で2年ぶりの白星を挙げ、長野も移籍2年目の今季は打率.285、10本塁打、42打点と前年以上の成績を残した。

 そして、今オフも、FA補強の結果次第では、「ひょっとしたら……」と心が揺れている選手たちにとって、気の休まらない年末・年始となりそうだ。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月14日掲載