「片目が開かない病気」を抱える娘にかけられた“予期せぬ言葉”

国内 社会 2020年12月4日掲載

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 街中や電車などで、見た目に特徴がある人につい目が向いてしまい、リアクションに困ってしまった。そんな経験をしたことはないだろうか。

 どうやら何かのハンデを負っているらしい、じっと見るのはもちろん失礼、でも急に目をそらすのもまた失礼な気が……こんな感じで何となくどうすればいいのかわからなくなるのだ。

 では、“見られる側”の気持ちはどうだろう。お子さんがそんな感じで見られる機会が多いというばたこさんは、著書『お義母さん、ちょっと黙ってください』の中でこのように綴っている。

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 次女には先天性の病気がいくつかある。その病気のひとつに目の病気があり、片目は腫れぼったく開いていない。生まれてから何度も何度も大きな病院に行っているし、遠方にこの病気を診てくれる先生がいると聞いたら、時間もお金も構わず病院へ連れていった。

 しかし、次女の目は手術をしないかぎり開くことはないと言われた。病院へ行く度に、時間やお金より、私の心がすり減っていた。次女に対して申し訳ない気持ち、今後を心配する気持ち、そんなネガティブな気持ちが子どもに伝わらないように気丈に振る舞うことに少し疲れていた。

 そんなときに他人から「この子の目どうしたの」と聞かれると、責められたような気持ちになった。純粋に心配してくれている人もいるようだったけれど、責めるようなニュアンスを含む人もいた。

「ちゃんと病院へ連れてってあげよ」

 出会って1秒の見ず知らずのあなたが気づいているのだから、母親の私が気づかないわけない。

「女の子やのにかわいそうやな」

 それは次女が生まれてから私が一番思っている。

 私はそんなことを言われたら誤魔化すように笑うしかなかった。笑って分かったようなふりで早く話を流さなければ、次女に「かわいそう」が聞こえてしまう。

 この人は目のことを聞きたがっているな、と感じたら「生まれつきの病気なんです」と先回りして次女の説明をするようになった。これ以上聞かないで下さいというニュアンスを含めながら伝えた。そんな説明が定着してきたころ、私はもういっぱいいっぱいだった。ずっと張りつめていて、知らない人に声をかけられることを怖がっていた。

次女の説明書の一番上は「かわいい」

 ある時次女の病院帰りに知らないおばあさんに声をかけられた。

「ちょっと赤ちゃん見せてもらえる?」

 またきた……。そう思って私がお決まりの説明をするより先におばあさんは「かわいいねえ」と言った。

「本当にかわいい赤ちゃん、かわいいわあ、ありがとう、かわいい赤ちゃん見て元気でました」

「おててもおくちもおめめも全部かわいい」

 何回もかわいいを連発してくれた。私より先に次女のかわいさの説明をしてくれた。

 張りつめていた心がほぐれて、泣き出しそうになる。

 抱っこ紐の中の小さな次女を見る。本当にかわいかった。

 私は次女の説明書の一番上は、「かわいい」だということを思い出した。

 目や病院のことを聞いてくれた人の中にも、心配や応援の意味で聞いてくれた人もいるかもしれない。でも、私はそれらの言葉からは負の感情しか得られなかった。

 どうせ一瞬だけの付き合いなら、「かわいい」だけでいいのではないか。

 心配も応援もすべて「かわいい」に詰め込んで、赤ちゃんを褒めてくれたら、母親も褒められたような、そんな気持ちになれる。嬉しい気持ちになり、今日もがんばろうと思える。

「母乳がいいよ」「今の人は抱っこ紐とか楽でいいね」そんな言葉ももしかしたらお母さんを傷つけるかもしれない。お母さんの心にしこりを残すかもしれない。

 おじさんも見ず知らずの人に「ハゲててかわいそう」「そのハゲてるのは病院行ったの?」「ハゲてるけどがんばって」と言われたら、その日は一日落ち込んだ気持ちになったり、心にしこりが残ってしまうのではないか。

 お母さんから見る赤ちゃんのかわいさが濁らないように、「かわいい」の言葉で赤ちゃんの周りが溢れますように。

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 見られる側の負担になるような声がけは論外だが、あなたの一言が誰かの気持を救うかもしれない。

 こんな毎日の悲喜こもごもをばたこさんはユーモアを交えて著書『お義母さん、ちょっと黙ってください』の中で綴っているが、疲れと悲しさ、怒りでいっぱいで泣いたこともあったかもしれない。ばたこさんは「人の悩みは外からは分からないし、事情もそれぞれある。自分で解決できないことも、社会に助けを求めることでどうにかなるかもしれないということを知った」と語っている。

 病気だけでなく家族や職場の人間関係など切っても切り離せないことで、小さな我慢を繰り返しながら生活している方も多いのではないだろうか。

デイリー新潮編集部