結婚相手の母親は“モンスター”だった 市役所窓口でモラハラぶりに振り回された嫁の悲劇
「家に勝手に入ってくる」「冷蔵庫を漁る」などデリカシーのない義母
結婚をすることで直面する大きな課題のひとつとして義父母との同居が挙げられる。なかでも生活習慣や価値観の違いから顕在化する嫁姑問題は、大きな不安要素の一つではないだろうか。
同居こそしていないが、義実家の近くに引っ越した大阪在住の主婦・ばたこさんは、嫁姑問題に直面することになった一人だ。Twitterでつぶやきはじめた義母への愚痴が注目され、著書『お義母さん、ちょっと黙ってください くそばばあと私の泥仕合な日々』を刊行したばたこさんはどんな体験をしたのか?
「家に勝手に入ってくる」「冷蔵庫を漁る」「私をこそ泥扱いする」などデリカシーのない義母の行動に頭を悩ませているばたこさんは、「結婚したその瞬間から、義母は私との距離を0まで詰めてきました。自分からは絶対に友達にならないような人と密な距離で関わらなければならない、それが私のストレスでした」と語る。
夫と3人の子どもと暮らす平凡な毎日を脅かす義母との生活がばたこさんを苦しめているのは言うまでもないが、なかでも屈辱的な体験を紹介する。
以下、著書『お義母さん、ちょっと黙ってください くそばばあと私の泥仕合な日々』の中から抜粋して掲載する。
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「マイナンバーは覚えやすい連番がいいわ、7の連番はまだあいてる?」
「嫁ちゃん、職場にマイナンバーを提出しなあかんけどないから市役所一緒にいこ」
義母が珍しく普通のお願いをしてきた。子の育成医療の手続きやらで、私も市役所に行かなければならないので了承し、私の仕事が休みの日、市役所が開くのに合わせて一緒に向かった。義母は「帰りは寿司食べて帰ろか」と楽しそうにしていた。
市役所に到着し、義母が総合受付の人に意気揚々と話しかける。
「私だけマイナンバーカードの通知も来てないんですけど、どこ行ったら良いですか?」
マイナンバーカードの通知が来てない……? 国民全員に来たマイナンバーカードの通知が来ていない。やや不安を覚えながら案内してもらった窓口に向かった。
義母は順番待ちの発券をスルーし、窓口へ直行した。
「マイナンバーカードの通知来てません! 覚えやすい番号にしてください!」
今日の市役所は長丁場になりそうな予感が脳裏をかすめた。義母は税金を納めているという自信からか、職員に威張りくさっていたしマイナンバーというものを理解していなかった。
職員に順番待ちの発券をして下さいと促された義母に、マイナンバーはなんたるかを説明したけれど、全く聞いていなかった。「あっちのミスやのに待たされるなんてとんでもない」と口調は苛立ちを帯びていた。とんでもないのはあんたただ1人だよ、と思ったけどやかましさが増すだけなので言わなかった。
ようやく義母の順番がやってきた。
「職場でマイナンバーがいるって言われたんやけど私だけ通知カードが来てへんねん、それでわざわざこっちから出向いたんやで、番号は覚えやすい連番がいいわ、7の連番はまだあいてる?」
義母は窓口で圧倒的な図々しさを放っていた。義実家には大量の書類や広告その他様々な紙類が溢れかえっているので、きっとその中に通知カードはある。それでも勝手に国の失敗と決めつけ、あまつさえ7の連番を希望する義母。
図々しさひとつで国に対抗する義母に、職員は端的に説明してくれたが、それを聞きもせずに遮る。
「まあええわ、すぐマイナンバー教えて下さい」
義母はマイナンバーの理解を諦め、職員にマイナンバーを教えるよう詰め寄った。住民票にマイナンバーを記載できるそうなので、住民票取得のために身分証明書を提示することになった。義母は車の免許を持っておらず、保険証だけでは年金手帳か銀行のカードや通帳などが、もう一つ必要とのことだった。
「じゃあこれでお願いします」と義母はマツキヨのポイントカードを出した。
お願いできるわけない。
「これじゃあかん? じゃあキリン堂とスギ薬局も出すわ、車の免許もとってない私が悪いんでね」と義母は薬局のカードを3枚出した。一見投げやりで自虐的な言葉の節々に、確かな嫌味を感じた。
窓口は混乱に包まれる。薬局のカードが何枚あろうが義母の身分は証明できない。証明できたのは、義母がやばいばばあであること、その一点のみ。
窓口での話し合いは堂々巡りで全然終結しなかった。
私はたくさんの人が働いている、市民の大切な窓口に、やばいばばあを連れて来たことが恥ずかしくてたまらなくなり、職員に謝り、自分の用事も済ませぬうちに、どうにかこうにか義母を義実家に連れ帰った。
義母との生活は「小さな我慢の繰り返し」
義実家のリビング、ダイニングテーブルのその下に大事な書類は置かれている。ほとんど読まないのに毎週忘れず義母が購入する週刊少年ジャンプ、料理もしないのに何故か購入するオレンジページ、その他の雑誌が山積みになったその奥に書類はある。私が雑誌を移動させると義母が「それ暇なときに読むから大事に扱ってよ」と怒りだす。「嫁ちゃんは物を大事に扱うってことを知らんから~」と言う義母を殴ってやろうか、と思ったがそんな時間はない。すでに時計は12時を指していた。
昼食もとらないまま私は書類を一つ一つ確認していく。8年前のヤマザキ春のパンまつりのシール台紙、私が見たこともない五百円札、すでに捨てた炊飯器の説明書、旦那の小学校の通知表、義母が行ったことのないジブリ美術館の入場券、幸運を呼ぶという顔の切れていないペコちゃんが10人入ったミルキーの包み紙……。多種多様な紙が出てきた。義母の大事な書類の範囲が広すぎる。義母は「嫁ちゃんその五百円札盗まんどいてよ」とうるさいばかりで、なんの役にも立たなかった。
掃除すらされていない埃だらけの義実家のダイニングテーブルの下で、私は咳き込みながら書類を探す。義母のことを置いて自分だけ市役所に行く選択肢が頭をよぎったけれど、義母がまた職員に迷惑をかけると思うと放り出すことはできなかった。これが家族になるということかと、絶望した。
義母は「オレンジページみてたらお腹減ってきたわ」とうるさかったので、コンビニにおつかいに行かせた。
数時間後、義実家の山のような書類の中から通知カードと年金手帳を見つけ出し、再度市役所に向かう。義母の手続きが終わったのが午後4時30分。私の貴重な休日は義母の大暴れで終わった。
「はあほんま疲れたわ~先帰っとくで、寿司買って帰るわ」と義母は私の育成医療の手続き終了を待たずに一人で帰った。ありがとうは一言も言われなかった。義母とはもう絶対に市役所には行かない。むしろこいつとは、どこにも行きたくない。そう思った長い一日だった。
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ばたこさんはこの壮絶な体験をユーモアたっぷりに綴っているが、頭がハゲそうになるくらい大変だったに違いない。知り合いからは「なんで離婚しないの?」と何回も言われるというが、「離婚も選択肢に入るのかもしれないけれど、今のところはなんとか限界を超えることなく生活できている」とばたこさんは語る。
このように義母とは仲良しではないけれど、嫁と姑として最低限の関係を築き、小さな我慢を繰り返しながら生活している方も多いのではないだろうか。