競馬業界にインド人が大量流入 「三冠馬」産地の日高でトラブル、オーナーも困惑

スポーツ 週刊新潮 2020年11月26日号掲載

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 来る11月29日、ジャパンカップが行われる。アーモンドアイにコントレイル、デアリングタクト。三冠馬3頭が覇を競うのはJRA史上初とあって空前絶後の注目度である。しかしそんな折も折、デアリングタクトの故郷、北海道の日高ではトラブルが勃発していた。

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 日高といえば、名馬の産地として知られる。年間2兆8800億円を売り上げる中央競馬の馬のおよそ8割が日高産だ。ハイセイコーにナリタブライアン……日高の名馬にデアリングタクトの名が加わるのは確実。だが、無敗の三冠牝馬(ひんば)に当たる光が強いほど、故郷に落ちる暗い影とのコントラストも鮮烈である。

「競馬界が抱える慢性的な問題でもありますけど」

 と、ある牧場関係者が切り出した。

「日高管内には700の牧場があり、約1万3千頭の競走馬などが暮らしています。でも馬に関わる仕事はいわゆる3Kで、日本人は離れてしまい、調教師や調教要員のなり手がない。圧倒的な人材難なのです」

 そこに、数年前からインド人が大量流入している。人口6万4千人の日高管内の商店ではヒンディー語がちらほら、豚肉が禁じられたイスラム教徒のためのハラルマーク付きの肉も売られるようになった。

「調教要員に限ると、5年前はわずか5人でしたが、昨年は170人にまで急増しました。助手などを入れれば400人ほどのインド人に支えられています。インドはイギリスの植民地だったので競馬が盛ん。馬に馴れた人が多いんです」

 トラブルは、そのインド人のあいだで起きている。

「原因は、インド人を斡旋する2グループの対立です。インド系マレーシア人の“サム”という人物のグループと、ネパール人の“ギリ”のグループで、調教要員や助手の引き抜き合戦をやっている。この争いに、デアリングタクトの代表オーナーである岡田牧雄さんも巻き込まれ、当惑しているようなんです。岡田さんはサムを使っていますから」

入管や警察に…

 さる牧場主がこう明かす。

「サムは20年ほど前に来日し、産まれてまもない馬に乗って調教する騎乗員をやっていました。日本人の働き手が減る一方なので、数年前から、サムが少しずつインド人を呼んでいた。そして牧場主などの雇い主から必ず23万円の月給が入るよう交渉するんです。うち1万5千円が彼の斡旋料、他に1万5千円を役場や税金関係の手続き料として徴収し、買い物や病院といった生活の面倒も見る。インド人の手取りは20万円で、15万円を家族への仕送りに充てるんだとか」

 一方のギリについては、

「来日は11年前。中古車を東南アジアに売る仕事を経て、日高管内周辺にカレー店を何軒か持つ実業家です。サムがやっている人材斡旋をおいしいと思ったのでしょう、2、3年前に参入しはじめたようですね」

 だが、評判はあまりよろしくないという。

「雇い主にはインド人1人の月給を18万円と安く売り込みますが、斡旋料を2万5千円も取り、さらにアレコレを差し引いてインド人に10万円ほどしか渡さないんです。しかも、インド人の来日時に借金を負わせて呼び寄せるとか、税金の手続きが不十分で次の年、ビザが下りない人がいたとも聞きました。あとは、行方不明になったままの人がいるとも。だからインド人は待遇のいいサムのグループに移ってしまう。ギリはそれを引き抜きだと怒り、サムを悪し様に言うんです」

 ただし、サムは斡旋を業として行っていない。いわばモグリだ。ギリは斡旋のための会社を設立している。

「サムは、昔からの人間関係で斡旋してインド人から慕われているのに対し、ギリは実業家らしくビジネスライクです。でもあるときギリが、サムが無免許で斡旋していることを入管や警察に告げたんです。これには岡田さんも激怒したそう。三冠馬のオーナーとはいえ、インド人の働き手なしではやっていけませんからね」

 その岡田氏に聞くと、

「私がデアリングタクトと出会ったこの日高が、多くのインド人に支えられているのは事実ですが……」

 とだけ語り、トラブルについては固く口を閉ざした。当事者たちにも話を聞くと、

「斡旋の仕事は、5、6年前からやっています。エージェントとしてやっているわけではなく、知り合いの牧場を助けてあげているんですよ」(サム)

「サムさんは嘘つき。インドの言葉も話せないし、インドの血も入っていない。ただのマレーシア人。僕が斡旋した人のほうが母国への仕送り額が多いのに、彼は嘘をついて僕のところから引き抜くんですよ」(ギリ)

 世界も注目する夢の対決のウラで繰り広げられていた別の戦い。それは競馬界の悩ましい問題を浮き彫りにした。

ワイド特集「未収穫の秋」より