アウトロー願望をちょっと刺激…玉木宏「極主夫道」の毒を抜いても薄味でない魅力

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 元ヤクザの主夫を玉木宏(40)が演じている連続ドラマ「極主夫道」(日本テレビ系、日曜午後10時半)がウケている。放送されるたび、ツイッターのトレンド入りし、視聴率レースでも上位に食い込んでいる。

 現代の視聴者はドラマに“家事のデキる男”を求めているようだ。

 大ヒットした「私の家政夫ナギサさん」(TBS系、9月終了)で、ヒロインのメイ(多部未華子、31)の相手役がスーパー家政夫・ナギサ(大森南朋、48)だったのはご記憶の通り。玉木が演じている「極主夫道」の主人公・黒田龍も家事万能の主夫だ。口癖は「主夫ナメたらアカンでぇ!」である。

 龍は元伝説のヤクザで、「不死身の龍」と呼ばれていた。けれど2年前にデザイナーの美久(川口春奈、25)と結婚したのを機に足を洗い、専業主夫になった。

 2人の間には10歳になる一人娘の向日葵(白鳥玉季、10)がいる。美久が学生時代に別の男性との間に生んだ子供だが、龍と向日葵は実の親子以上の絆で結ばれている。家族3人は仲睦まじく暮らしている。

 こんなストーリーなら、シリアス調でもドラマ化は可能であるはずだが、このドラマは隅々までコミカル。例えば、龍がママチャリで行く買い物先は「スーパーブンタ」。ヤクザ映画界に大きな足跡を残した故・菅原文太さんの名前を借りているのは説明するまでもない。

 龍と何かと張り合う元ヤクザの白川虎二郎(滝藤賢一、44)は松方刑務所から出所したばかり。こちらは故・松方弘樹さんの名前を思い起こさせる。ほかにもニヤリとさせられる仕掛けが至るところに散りばめられている。

 龍の人物像はというと、カタギになった今もイタリアンスーツを着込み、ティアドロップ型のサングラスをかけている。顔には大きな刃物キズの痕。見た目は完全に現役ヤクザだ。

 言葉遣いもそう。玄関のチャイムが連打されると、「カチコミか!」と血相を変え、通っているフィットネスジムは「シマ」と呼び、物品は「ブツ」と称する。美久が仕事を終えて帰宅すると、腰を落とし、「お勤めごくろうさんです」と頭を下げる。

 とはいえ、今の目標は主夫の道を極めることだ。料理や手芸などに打ち込み、自信作が出来上がると、目尻を下げる。それをスマホで撮影し、インスタにアップ。「いいね!」を期待する。

 コンプライアンスが厳しくなり、ヤクザを前面に押し出す映画やドラマの制作は難しくなるばかりだが、このドラマはコメディ作品に徹することで毒を抜き、映像化を実現させた。それでいで薄味にはなっていない。原作はWEBマンガサイト「くらげバンチ」に連載中の同名人気作品だ。

 やはりコメディタッチにすることでヤンキーの世界をソフトに描き、大ヒット作になった「今日から俺は!!」(日本テレビ、2018)を想起させる。放送枠も一緒だ。

 この2つのドラマへの支持は、厄介者と見られがちなヤクザとヤンキーにどこか惹かれる人が少なくないことの表れではないか? アウトロー願望である。かつては世にあふれかえっていたヤクザ映画や不良映画がそれを満たしてくれていた。

 だが、今はヤクザ、不良をリアルには描けない。やったとしたら、あちこちからクレームが来る。なので、その世界をうまくデフォルメし、放送可能にした作品がウケるのだろう。

 なぜ、龍が不死身と言われるのかといえば、対立組織に1人で乗り込み、たった一晩で壊滅させたから。今も気力と体力に衰えはなく、背後に人が立つと、反射的に殴り倒してしまう。まるで「ゴルゴ13」だ。

 車にはねられ、8m吹っ飛んだこともあるが、生命に別状はなく、それどころか歩いて現場を立ち去った。まさに不死身なのである。

 龍はヤクザになるために生まれてきたような男だ。けれど、自分を偽って主夫をしているわけではない。カタギになる前から家事も愛していた。美久のお弁当も嬉々として作る。「仁侠」「大吉」などの文字が入った極道めし(キャラ弁)である。

 一方、美久は大の家事オンチで、「わたナギ」のメイと同じ。メイは自宅を汚部屋にしていたが、美久は野菜を包丁で刻むことも出来ない。

 「極主夫道」は「今日から俺は!!」を想起させる一方、「わたナギ」との共通点も目立つ。メイも美久も“仕事はデキる女”なのだ。これからのドラマ界は“家事のデキる男”と“仕事のデキる女”の組み合わせが定型の1つになるかも知れない。

個性豊かな脇役たち

 「極主夫道」はほかの登場人物も個性豊かでコミカルな面々ばかり。虎は刑務所を出てみると組が潰れていたため、軽ワゴン車を使って移動クレープ店を営む。

「ムショで炊事場係じゃった。そこで出おうたのがクレープじゃ」(虎)

 腕には自信がある。だが、顔にはやはり刃物キズの痕があり、眼光が鋭く、なぜか銀髪だから、客足が鈍い。どうやら虎は自分の見た目の問題に気づいていないらしい。

 龍は現役ヤクザ時代、天雀会の若頭を務めていたが、その組長が江口菊次郎(竹中直人、64)。もっとも、江口が公務執行妨害を犯したため、組は解散を余儀なくされた。

 残った子分は龍の弟分である赤宮雅(志尊淳、25)だけに。シノギもポケットティッシュに広告を詰め込む内職くらいしかない。だから貧しい。

 菊次郎としては龍を再び迎え入れ、なんとか組を再興したい。そんな折、龍と美久の関係が危機にあるという話を聞き、一気に離婚させようと目論む。龍が向日葵から嫌われることによって、家族を崩壊させようと考えた。

「向日葵にアリもしねー龍の悪口をぐちぐち、ねちねち吹き込むんだよぉ~」(菊次郎)

 これには雅もあきれて、一切の協力を拒否。子分に反抗された江口は大人気なく怒り狂う。抱腹絶倒の場面だった。竹中は狡くて、セコくて、情けない人間を演じるのが抜群にうまい。

 稲森いずみ(48)の演技も出色だ。役柄は菊次郎の妻・雲雀。これまで強かった淑女のイメージをかなぐり捨て、岩下志麻(79)ばりの極妻に成りきっている。無論、和服で和髪。驚くほどハマっている。

 その言動はやっぱりコミカル。天雀会の台所事情が苦しいので、殊勝にもスーパーブンタでパートをしようと面接に訪れたものの、応対した店長に大威張り。その上、希望月収を100万円と伝え、店長をぼう然とさせる。

 やたら仕切りたがるクセもあり、主婦同士の争いにまで首を突っ込み、「そのケンカ、あたしが預かるよ!」と声を張り上げたことも。無論、大顰蹙を買った。

 これまでに放送された6回の世帯視聴率の平均値は約9・9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区を基に算出)。2ケタの大台まで、もう一息だ。

 それでも「この恋あたためますか」(TBS系)と「恋する母たち」(同)の8%台を上まわっている。7%台の「姉ちゃんの恋人」(フジテレビ系)と6%台の「ルパンの娘」(同)も凌駕。同じ日テレ系である「35歳の少女」の9・5%も超えている。

「わたナギ」とは笑える作品という点でも一緒。新型コロナ禍で世相が暗いので、見る側は笑顔になれる作品を待っているのだろう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月22日掲載

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