「イージス・アショア」選考過程で不正か ロッキード社優遇、特捜部も捜査

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〈イージス・アショア/日本企業参画検討経緯〉

 そう題された文書が手元にある。

 昨年、米ロッキード・マーティン社の日本法人が、政府や与党のごくごく限られた防衛関係者に配布した文書だ。その時点ではまだ“生きていた”イージス・アショアの配備計画。そのレーダーを受注した同社は当初、日本企業を製造に参画させる予定だったものの、最終的に実現しなかった。その経緯を弁明するために出した文書である。

 その文書の中に、気になる表現がある。

〈18年5月末 MDAより(中略)レーダー性能向上要求有り。LMよりMDA経由、防衛省へは能力向上型レーダー(LM SSR)(中略)での提案を実施〉

 専門用語が並び、門外漢には意味が取れないが、

「実はこの記述は、選考の謎を解く上で、大きな意味を持つものです」

 と解説するのは、さる自衛隊関係者。

「もともとイージス・アショアのレーダー選考過程には疑念が囁かれていました。ロッキード社の製品よりさまざまな面で優位に立っていた、ライバルのレイセオン社の製品が“負けた”過程が疑問視されていたのです。この文書には、その“謎”を明らかにする手がかりが示されている。選考が“出来レース”だったのではないか、との疑いを裏付けるかのようなものです」

 イージス・アショアの配備は断念されたが、現在、議論されているその代替案にも、このレーダーの導入が予定されている。

「その意味で、今も国の選択肢を縛る契約と言えるのです」(同)

 10月末に始まった臨時国会。最もホットに交わされているテーマは、学術会議の任命拒否問題であるが、本来、費やされる公金の規模、何より日本の安全保障という問題の大きさの両面で、その何十、何百倍も議論しなければいけないのが、イージス・アショアの代替案に関する論議ではないか。

 ここに至るまでの事情を簡単に説明しておこう。

 イージス・アショア配備のきっかけは、2016~17年、北朝鮮が計40発もの弾道ミサイルを発射したことである。

 それまで日本のミサイル防衛は、「PAC3」と呼ばれる陸上型・移動可能な迎撃ミサイルと、「SM3」と呼ばれる、主にイージス艦に配備される海上型の迎撃ミサイルシステムの両方が担ってきた。しかし、北の暴発に備え、24時間365日、日本全体を防衛できる態勢強化が叫ばれ、「第三の盾」となるイージス・アショア、すなわち「SM3」の陸上版の配備が検討され始めたのだ。

 2017年末に2基の導入が閣議決定。2018年7月には、イージス・システムのレーダーにロッキード社の製品が導入されることが決まる。2019年5月には、防衛省が秋田市と山口県の陸上自衛隊演習場への配備を地元に伝達。配備はとんとん拍子に進んだ。

 ところが――。

 その後、候補地選定に当たり、秋田市を適地とした調査データに誤りがあることが発覚。今年の6月には、山口県の演習場において、迎撃ミサイルを発射した際に切り離す「ブースター」が、演習場外に落下してしまう可能性が出てきたことまでわかった。これを受け、当時の河野太郎・防衛大臣が突如、配備計画の停止を発表し、国内外に衝撃を与えたのは記憶に新しい。

 こうして陸上配備が頓挫した現在、政府が頭を悩ませているのがその代替案をどうするのか、ということだ。防衛省は洋上でイージス・システムを導入する三つの案を提示しているが、

「中でもイージス艦を2隻増隻する案が有力です。が、結局、『第三の盾』だったはずが、以前のシステムの延長に過ぎなくなってしまったとの感は否めません」(自民党の国防族議員)

 それに加えて、

「何より疑問なのは、その代替案においてもなお、防衛省は、イージス・アショア時代に決定したロッキード社のレーダーを導入する方針なんです。既存の契約ありきで動いていますが、失敗した過去にこだわるとまた失敗を繰り返す」(同)

実物とカタログ

 実は、このロッキード社のレーダーについては、これまでさまざまな疑問が呈されてきている。

 イージス・アショアは、ミサイルに対する「目」となる「レーダー」、迎撃ミサイルを打ち出す「発射装置」、両者を繋ぐ「頭脳」となる「イージス・システム」の三つで構成される。このうちレーダーには、二つの候補があった。ロッキード社が製造する「LMSSR」(現「SPY(スパイ)-7」)と、やはり米レイセオン社が製造する「SPY-6」である。前述のように、防衛省は、2018年7月、「LMSSR」の採用を決めた。

 ところが、である。

「この選定に首を傾げる防衛関係者も多かった」

 と言うのは、さる自衛隊OBである。

「当初、有利と見られていたのは、SPY-6の方でした。SPY-6は既に製品化され、米海軍がイージス艦向けに採用を決定していた。言わば、実績があるのに対し、LMSSRは、その時点でまだ開発中。“構想段階”にあった。つまり、実物とカタログのみのモデルが比較され、カタログ商品が選ばれてしまったようなものなのです」

 また、

「SPY-6であれば、その『頭脳』のシステムとして、『ベースライン10』という最新システムを連結できるのですが、LMSSRなら『ベースライン9』という1世代型落ちしたシステムに繋がれることになってしまう。更には、北朝鮮は弾道ミサイルだけでなく、巡航ミサイル、変則軌道ミサイルなどさまざまな種類のミサイルも開発していますが、それらへの適応能力の点でも、SPY-6が上と見られていた」(同)

 しかし、結果は、ロッキード社に軍配が上がったというわけである。

 その背景を巡っては、

「東京地検特捜部が関心を示しています」

 とは、全国紙の社会部デスクである。

「ロッキード社が選ばれた裏に、選定関係者との不適切な関係がなかったかと疑い、今年に入ってから資料を集めるなど“基礎調査”を続けていた。各社の記者は、この秋以降、防衛省や自衛隊の幹部経験者のところへ夜討ち朝駆けを繰り返していました。防衛大臣経験者がロッキード社から億単位の金を受け取っているという怪情報も流れ、裏取りに走った社もありました」

 未だ調査は続行中と見られているが、そもそも“その前”、防衛省での選考の前の段階で、「出来レース」があったのでは、と示唆するのが、冒頭に示した文書なのである。

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