オリンパス元役員に600億円の賠償命令 支払いを逃れる可能性も

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〈最初の動議は、ウッドフォード氏の社長、CEOおよび代表取締役からの解任の提案です。ウッドフォード氏には一切の発言を許可しません〉

 元オリンパスCEOのマイケル・ウッドフォード氏が書いた『解任』(早川書房)には、取締役会で菊川剛会長(当時)からクビを告げられるシーンが出てくる。粉飾を追及しようとし、逆襲されてしまったわけだ。2011年10月のことである。

 ところが、その4カ月後、東京地検特捜部が逮捕したのは菊川氏ら日本側の役員だった。捜査で明るみに出たのは、歴代経営陣が手を染めていた巨額の損失隠しである。

 オリンパスの旧経営陣3人に対して、最高裁が、損害賠償を支払うよう命じたのは今年10月22日のこと。注目すべきは594億円という賠償の金額である。株主代表訴訟で確定した賠償額では過去最高だ。

「この裁判は、オリンパスと、同社に投資していたファンドなどの株主が起こしたもので、昨年、高裁で菊川氏と森久志元副社長、山田秀雄元常勤監査役に対し賠償すべしという判決が出ました。3人は上告しましたが、今回、それを棄却する決定が出たというわけです」(司法担当記者)

 すでに3人には刑事裁判で有罪判決が出ており、民事法廷においても裁判所は積極的に損害を認める姿勢だった。

 実際、オリンパスの別の株主代表訴訟の代理人弁護士によると、裁判所は「取締役の責任」を常に重くみるという。

「594億円という賠償額は、それぞれの原告が受けた“被害額”を積み上げたもの。菊川氏らが会社に与えた損害がそれだけ大きかったと認定されたわけです。取締役が会社に損害を与えた場合の時効は10年と長く、役員が亡くなっていた場合でも、その遺族が提訴されることがある。今回の裁判でも、一審では亡くなった元社長の相続人3人に賠償を命じています」

 それにしても1人当たり200億円とは桁外れ。ただし、実際に取り立てが可能かどうかは別の話だ。

「裁判所は判決を出すだけで、原告のために何かをしてくれるわけではありません。一般的に回収可能な資産としては不動産や預貯金がありますが、差し押さえの手続きは原告が行う。しかし、被告側は自らの敗訴が予想される裁判では、資産をどこかに逃がしてしまいます。土地建物は別人名義に変え、預貯金も引き出してしまう。公的年金には憲法の“基本的人権”が適用されますから、差し押さえられることもありません。原告は何百億円もの賠償判決を勝ち取っても実際に金を取れるとは限らないのです」(同)

 オリンパスに聞くと、

「現在、専門家と相談しており、どのようにして賠償を支払ってもらうかについては、お答えしておりません」(広報担当者)

 やたらと大きい賠償額も空しく聞こえる始末である。

週刊新潮 2020年11月19日号掲載

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