コロナ禍を逆手に取った名作「#リモラブ」 リアルな日常と展開の妙で今期ベスト!

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 SNSやオンラインゲームのチャットで、会ったこともない人に心ときめく。昔の「不埒な出会い系」をつい思い出すが、今じゃすっかり「恋の入口の王道」だ。使う言葉や文字、返信の速度やタイミングで知性とセンスの品定めが可能だし、相手の素性と本性を推理する楽しさもある。そんな顔が見えない恋の行方と、コロナ禍ならではの細心の配慮を逆手にとったドラマが「#リモラブ」である。

 密を避け、マスク越しの日常をそのまま現在進行形で見せるので、神経質な視聴者からのお叱りも回避。大勢の雄叫びで大団円みたいな暑苦しい場面もナシ、距離を保った少数精鋭でも中身は濃密にできると証明。

 軽くて薄いタイトルに波瑠主演の恋愛モノと聞いて、苦手なヤツと思っていたのだが、観てみたら今期一番面白かった。それこそチャットじゃないが、使う言葉や展開の速度、仕掛けのタイミングなど全体のリズムがとても心地よくて、1時間があっという間に感じる。

 チャットで恋をした相手が同じ社内というドラマ特有のご都合主義も、その後の展開で「推理と勘違いのリズム芸」に転換。毎回のラストが次回への誘い水にちゃんと仕上がっている。

 波瑠が演じるのは、とある大企業の産業医。数多くの男性と出会ってきたが、完璧主義の彼女のお眼鏡にかなう人材は皆無。男を料理にたとえるものの、理想の極上ステーキは現れず。

 そんな折、コロナ禍で世は一変。波瑠は産業医として、社内の人間に感染予防指導を行うも、度を超えた厳しさに陰口を叩かれる。でも本心は寂しくて人恋しくて、オンラインゲームのチャットを始めたら(ハンドルネームは草モチ)、うっかり恋に落ちちゃって。相手は檸檬という男である。

 檸檬が送ってきた写真から、どうやら社内の人間と推測。まずは新人看護師の高橋優斗と勘違い。そしてチャットの中の「尿酸値が5・29」から、産業医の職権乱用で候補者を絞り込み、人事部の及川光博と勘違い。逆に、波瑠に思いを寄せる間宮祥太朗は、自分が檸檬だと偽って急接近してきて。いったい檸檬は誰なのか。そこを引っ張ると思いきや、しれっと松下洸平だと判明。

 お人好しにもほどがある下僕体質の松下は、営業部の川栄李奈とコロナ禍で付き合い始めたばかり。が、性欲に関する考え方の乖離が激しく、第4話でもう別れちゃったよ。波瑠は松下が檸檬と気づくも、松下は波瑠が草モチだとまだわかっていない。推理と勘違いを経て、事実が判明したこの後は、どうなることやら。

「人との距離感や価値観が激変した今、恋愛はどうなる?」の問いに、ひとつの答えを出した作品でもある。

 また、十人十色のコロナ禍事情も、もれなくカバー。狭い家に大家族で在宅勤務の地獄を訴えるのは営業部の渡辺大が、飲食店の苦境は飲み屋の娘・福地桃子が、有事の際に屈強なのは手に職ありで達観した女という現実を江口のりこが体現。「今」を切り取ることに成功した名作だ。過去の遺産に振り回されとるテレ朝に、そのコツを教えてあげて!

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年11月19日号掲載

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