犯罪被害者に“死刑執行”通知へ 執行までの時間を延ばす「お役所仕事」も廃止すべき

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 日本の死刑制度はブラックボックスである。国は時折、死刑囚の何人かを死刑台に立たせるが、なぜ、その日に、その受刑者だったのかを明らかにしない。オウム事件の元死刑囚についてもしかり、である。そして、以前は被害者や遺族に対しても、死刑執行を教えることはなかった――。

 犯罪被害者の遺族らに加害者の死刑執行を通知する制度を始めると法務省が公表したのは10月20日のこと。1999年に始まった「被害者等通知制度」の一環で、事前に申請すれば死刑執行の公表前に、執行日や執行場所の連絡を受けるという。一歩前進と言うべきか。

 元東京高検検事の若狭勝弁護士が解説する。

「法務省が受刑者の死刑執行を通知することを決めたのは、“犯罪被害者に寄り添う”という近年の刑事政策の流れがあるからです」

 だが、死刑制度には、いまだに理由が明らかになっていないことが少なくない。たとえば、死刑執行は判決が出てから6カ月以内に行わなければならない。刑事訴訟法にはそう明記されているが、100人以上の死刑囚が獄中にいるのが現実だ。

「背景にあるのは、冤罪を完全に払拭できない可能性、そして死刑を廃止した先進国からのプレッシャーもある。実際、法務省は死刑にとても慎重です。たとえば、死刑執行の場合、検察庁のトップが法務大臣に上申書を提出するのですが、その前に法務省刑事局の検事が、事件を調べなおすのです。まるで捜査を最初からやりなおすように調書から確定判決まで全部精査する。そのうえで、“これなら死刑になっても仕方がない”と確信できたケースのみ、上申書を出しているのです」(同)

 それでも執行とはならない。上申書が提出されると、法務省刑事局総務課が「死刑執行について」と題する文書を作り、矯正局や保護局の幹部6人が押印。「執行に相当する」旨を記した文書に法務大臣、法務副大臣がサインしたうえで、法務事務次官、官房長、秘書課長、刑事局長、刑事局総務課長がさらに押印する。ようやく大臣の「執行命令書」が出されるまでに、11個ものハンコが必要なのだ。

 菅政権は行革の一環で行政上のハンコをなくしていくと宣言している。この死刑執行に係る押印はどうするつもりか。廃止したほうが執行もスムーズに進められるだろう。

 被害者に寄り添うというのなら、この「お役所仕事」こそ俎上に載せるべきではないのか。

週刊新潮 2020年11月5日号掲載

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