ドラマで出演者紹介の順番を決める難しさ 「友情出演」「特別出演」の本当の意味

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 中井貴一(59)と鈴木京香(52)が共演するテレビ東京の連続ドラマ「共演NG」が始まった。元恋人同士であるため、長く共演NGだった男女の役者の物語。だが、現実のドラマ界では、出演者紹介の際の順番が、制作陣と出演者の間で折り合わず、出演が流れることが多いという。どういうこと?

 第一線で活躍する役者だったら、「番手」に拘らない人はいないという。番手とは、ドラマの冒頭や終了時に表示される出演者紹介の順番である。

「自分より格下だと思っている役者のほうが、番手が上だったら、その仕事は断るのが役者。番手を気にせず仕事を引き受ける役者なんていない。番手が全てと言っても過言ではないほどの世界」(大物俳優と大物女優らのマネージメントを経験した芸能プロダクション幹部)

 ドラマを見る側としてはピンと来ないが、役者たちにとって番手とは、将棋界における段位、相撲界の番付、あるいはサラリーマン社会における序列に匹敵するものらしい。

 最初に紹介される役者の番手は「アタマ」と呼ぶ。主演である。最後に名前が出る役者は「トメ」で、準主演か大物俳優の定位置。アタマの次の2番目に名前が出る役者は「2番手」。準主演かそれに次ぐ立場だ。

 以下、「3番手」、「4番手」、「5番手」と続く。番号が若いほうが良い扱いとされている。また、名前の表示が複数であるより、単独で名前が出るほうが良い。

「ほかに『中トメ』というものある。中トメも別格の扱いで、3番手や4番手などの名前が一通り出た後、ベテラン役者などの名前が目立つ形で表示されることを意味する。同じく良い扱いなのが、トメの1つ前の『トメ前』。これもベテラン役者らのポジション」(同・芸能プロ幹部)

 なるほど…。試しに「半沢直樹」(TBS)の初回から第4話の番手を確認してみた。アタマは当然、堺雅人(47)だ。2番手は上戸彩(35)。これも納得である。

 3番手は及川光博(51)、4番手は片岡愛之助(48)、5番手は賀来賢人(31)と続く。番手は役者の格だけで決まるわけではなく、出番の多さや役の重さも考慮して決められるというから、やはり得心した。

 中トメは柄本明(71)。これに異論のある人はいないはず。キャリアも作品内での存在感も十二分だったのだから。

 トメは香川照之(54)で北大路欣也(77)はトメ前。北大路は唯一の「特別出演」だった。

 キャリアや役の重さを考えると、北大路がトメでも良かった気がするものの、香川も一流の役者であり、しかも出番が圧倒的に多かった。それで北大路は特別出演だったのか……。

 番手を付けるのが難しい時、制作陣が使う必殺技が、「特別出演」「友情出演」なのだそうだ。

「例えば3番手で出演を依頼されて、それを断った時などに、制作陣は『では友情出演でどうでしょう』と言ってくる。別格扱いにするということ。また、トメでも出る意味を感じないので断ると、『特別出演にしますから』と持ち掛けられる。最初から気を遣われて、特別出演を提案されることもある。北大路さんの場合、役者としての実績は香川さんより遥かに上だけど、香川さんも売れっ子だし、役が重い。なので、北大路さんにはトメ前の特別出演で演じてもらったのだろう」(同・芸能プロ幹部)

 ちなみに役者側から「友情出演や特別出演にしてくれ」と希望することはまずなく、基本的には制作陣側から言い出すものなのだそうだ。制作陣がその役者にどうしても出演してもらいたい時、この武器が使われることが多いという。

 現在放送中のドラマだと、「ルパンの娘」(フジテレビ)の藤岡弘(74)が中トメで特別出演。主演の深田恭子(37)の恋人・瀬戸康史(32)の祖父役だ。出演陣の中で藤岡のキャリアは突出しているから、これも合点がいく。

「主演が若く、そこへベテランが加わると、特別出演が増える。ベテラン出演者の番手を補い、バランスを採らなくてはならないから」(同・芸能プロ幹部)

 逆に主演が超大物だと、特別出演も友情出演もなくなるそうだ。

「例えば高倉健さんが生きていて、その主演作品に出る場合、制作陣から『特別出演にしましょう』と言われたって、みんな辞退する。健さんより特別な役者なんて、まずいないのだから。友情出演も同じ。健さんの作品に友情で出るなんて失礼に当たる」(同・芸能プロ幹部)

 ちなみに故・渡哲也さんの場合、特別出演を拒むことがあることで知られた。「みんなと同じ立場でいたい」というのがその理由だ。ただし、渡さんのようなケースは珍しいという。

過去には名優が大激突した例も

 過去にはNHKのドラマで名優2人が番手をめぐり、大激突したこともあった。1人が単独でアタマになるか、それともダブル主演にして、アタマに2人の名前を並べるかで紛糾した。昭和期を代表する女性脚本家の作品だった。

 なぜ、揉めたのかというと、男2人の奇妙な友情を描いた物語で、出番の多さも役の重要度も遜色がなかったから。ただし、キャリアは片方の役者のほうが上だった。

 2人が名優だったので、NHKの制作統括が職権で決めてしまうことも出来なかった。だから混迷し、なかなか決着しなかった。

 やはり大物女優のマネージメントを経験した別の芸能プロ社員が振り返る。

「(民放の)年末スペシャルドラマに出てくれと依頼されたけれど、2番手というので断ったら、『どうしても出演してほしい』と懇願されたので、『主演も含めた出演者の中で最高のギャラだったらOK』と無茶を言った。出たくないので、実現不可能と思える要求をした。ところが、本当に主演以上のギャラを出してきたので、仕方なく出演した」(元大物女優のマネージャー)

 これほどまでにドラマ界で重視される番手とは、演劇界と映画界の考え方が踏襲されたものだという。ただし、意味の無い習慣ではない。番手によって制作発表の並び位置が決まるし、ほかの仕事の扱いにも影響が出るのだ。

 また、出演作品が新聞や雑誌で紹介される時、番手が下位だと、名前を端折られてしまうこともある。CM界から見くびられることも。役者にとって番手はプライドだけの問題ではないのだ。

 番手が関係したわけではなく、共演者と遺恨があったわけでもないのに、いきなり民放の連ドラを降りてしまい、関係者を大慌てさせた役者もいる。約25年前のことだが、その降板理由があまりに突飛だったので、ドラマ界で伝説化している。

 主演は女優。降りたのは相手役の俳優で、2番手での出演が決まっていた。ところが撮影開始前に主演女優が結婚を発表すると、俳優は降板した。

 その女優に好意を抱いていたわけではない。理由はこうだった。

「結婚すると、女優は色気がなくなるから」

 関係者はあ然。俳優は若手の売れっ子だったので、ペナルティなどはなかったが、制作陣は水面下で代役探しに奔走させられた。

 この主演女優と降りた俳優はその後、一度も共演がない。これは本当の共演NGだろう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月3日掲載

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