「大阪桐蔭」出身のピッチャーはプロで大成しない? 平成以降に入団した14名を検証

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現役選手は

 引退した選手は以上の7人である。ここからは現役の投手の成績をみていこう。

 現役の投手も7人いるが、まずは最も現役を長く続けている投手から。大阪桐蔭から関西大に進学し、05年の大学・社会人ドラフトの希望枠で阪神に入団したサウスポー・岩田稔である。プロ野球のファン的には、1型糖尿病と闘いながら現役を続ける投手としてもお馴染みだろう。入団後は最速151キロの速球や縦に割れるカーブ、チェンジアップなどの多彩な変化球を武器にほぼ先発として起用されている。その成績は19年までのプロ14年間で192試合に登板して、1153回を投げて59勝80敗、防御率3.・3という微妙な数字となった。

 しかもキャリアハイの成績は、入団3年目の08年でもう10年以上前の話なのだ。27試合に登板して10勝10敗、奪三振101、防御率3・28という成績を残している。翌09年も2完封勝利を含むプロ入り後最多の4完投を記録し、7勝5敗で防御率は2.68と健闘した。・

 今季も序盤は2軍での調整が続いていた。9月21日の横浜DeNAベイスターズ戦で先発投手としてようやく1軍初登板を果たすと、10月1日の中日戦でようやく初勝利を挙げている。ここからの巻き返しなるかに注目である。

 2人目は12年のドラフトで大阪桐蔭から阪神に1位指名入団した、ご存知、藤浪晋太郎である。この年の同校は高校野球史上7校目となる甲子園春夏連覇を達成するのだが、まさにその立役者だったのがこの藤浪であった。甲子園での通算成績は9試合に登板し、76回を投げ、被安打53、90奪三振、失点はわずか9で結果的に9勝0敗、防御率は驚異の1・07をマークしている。

 そしてプロ入り後も当初はこの甲子園での実績通りの活躍をした。プロ1年目は規定投球回数にわずか6回1/3届かなかったものの、24試合に登板し、137回2/3を投げ、10勝6敗、126奪三振で防御率は2・75という好成績をマークしている。ただ、惜しくも新人王には選ばれなかった。その代わりにセ・リーグから連盟特別表彰として菅野智之(読売)とともに新人特別賞を受賞した。

 翌14年も7月15日の中日戦でプロ初完投勝利を記録するなど11勝8敗、172奪三振、防御率3・53と安定した成績を残した。

 さらにプロ3年目の15年には自身初となるタイトルも獲得した。221三振を奪って最多奪三振に輝いたのだ。またこの年は32イニング連続無失点を記録するなど、14勝7敗をマークし(7完投・4完封はリーグ最多)、防御率も2・40とキャリアハイの成績でフィニッシュしている。高卒1年目から3年連続の2ケタ勝利は01年の松坂大輔(埼玉西武)以来14年ぶり史上9人目、セ・リーグでは69年の江夏豊(元・阪神など)以来46年ぶり史上3人目となり、これまた快挙となっている。

 ところが良かったのはここまでであった。16年以降は不可解な制球難に陥り、4年間で15勝19敗と不振が続いている。昨年に至っては1軍登板わずか1試合に留まってしまい、プロ入り後初めて1軍未勝利に終わってしまった。

 そんな藤浪だが、今シーズンは復活の気配を漂わせている。開幕こそ2軍スタートとなったが、9月下旬に2度目の1軍昇格を果たすと中継ぎで安定した投球を披露している。なかでも10月19日のヤクルト戦では自己最速の162キロを計測したのだ。これは歴代3位タイの記録で、阪神に限ると17年のドリス(トロント・ブルージェイズ)、今季のスアレスを抜く球団最速記録となっている。中継ぎからの復活を目指す藤浪から今後も目が離せなくなりそうだ。

 そして3人目は、高校時代にこの藤浪の控え投手としてチームを支えた澤田圭佑である。甲子園春夏連覇したチームでは春夏ともに1試合ずつ先発し、14回を投げて被安打11、7奪三振、与四死球4、失点3、自責点3で防御率1・93という数字を残している。卒業後は東京六大学の雄・立教大へと進学し、1年の春から早くも主戦投手として活躍することに。4年間で通算69試合に登板し、300回を投げ、22勝16敗、225奪三振、防御率2・24という成績を残し、16年のドラフト8位でオリックスに入団することとなった。プロ入り後は中継ぎ要員として起用されることに。昨年までの3年間で88試合に登板し、7勝4敗25ホールド、防御率3・45となかなか健闘している。

 今シーズンも10月18日現在で24試合に登板した。0勝2敗でホールドもセーブもないが、21回を投げて24奪三振をマークしている。ただ、防御率の3・43をもう少し改善させたいところだろう。

 現役投手の残り4人は、16年のドラフト5位の高山優希、18年のドラフト5位の柿木蓮(ともに北海道日本ハム)。同じく18年のドラフト4位の横川凱(読売)、そして19年の育成ドラフト3位の中田惟斗(オリックス)だ。だが、高山と中田は現在育成契約で、柿木と横川はいまだ1軍登板のないプロ2年目の若手投手である。

 となれば、やはり藤浪が大阪桐蔭出身投手の中で一番の実績を誇るということになる。最後に番外編としてこの人を紹介しておこう。

 冒頭で平成以降のドラフト会議で……と書いたが、実は昭和の時代のドラフトで指名された同校出身のプロ第1号選手がいるのだ。88年の中日のドラ1にして、最速150キロ近いキレの良い速球とスローカーブ、フォーク、チェンジアップを武器に90年代のドラゴンズ投手陣の屋台骨を背負った今中慎二である。今中は89年のプロ1年目から01年に引退するまでの13年間の間に233試合に登板して91勝69敗5セーブ、1129奪三振、防御率3・15という成績を残した。

 なかでも93年には31試合に先発し(リーグ最多)、14完投(リーグ最多)を収めたほか、17勝7敗1セーブ、247奪三振、防御率2・20という圧倒的な成績をマークした。

 そしてこの17勝で最多勝利に、247奪三振で最多奪三振のタイトルを獲得すると同時に沢村栄治賞、ベストナイン、ゴールデングラブ賞にも輝いているのである。この成績だけ見れば、大阪桐蔭出身投手No.1の座は圧倒的に藤浪よりも今中だといえよう。譲る形で右腕なら藤浪、左腕なら今中でもいいかもしれない。

 ただ、いえることは、大阪桐蔭出身といっても大成し、活躍した投手は今中と藤浪、そしてまあまあ活躍した岩田と全員ドラ1入団組である。そういう意味でドラフト8位で入団したオリックス・澤田の奮闘ぶりは大いに評価したいところだ。

上杉純也

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月3日掲載

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