コンビニ外国人ドラマ「彼女が成仏できない理由」 設定は最高でも結局はアイドル接待ドラマに

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 近所のコンビニによく行く。店員の多くは外国人で、愛想もいいし、テキパキ動いて気持ちがいい。研修中の名札をつけた日本人のおじさん(覚えが悪い)に優しく教える姿も見たことがある。いまどきのコンビニは仕事の内容が実に多岐にわたり、支払い形式もタバコの種類もキャンペーンの内容も商品管理も複雑だ。

 日本人よりも日本語が上手で接客も丁寧、その陰には並々ならぬ努力があってこそ。見合う対価をきちんと受け取っているだろうか、搾取されていないだろうか、と思いを馳せる。とても身近なところにドラマがある。

 いつまでも公務員と特権階級だけ描いてないで、コンビニで働く勤勉な外国人を主人公にしたドラマがあればいいのに、と思っていたところ、きたよ、きましたよ。やってくれるぜ、NHK名古屋局。「彼女が成仏できない理由」である。

 主人公・エーミンを演じるのは森崎ウィン(いろいろとやらかす前の、フジの渡辺和洋アナ似)。純朴な彼が日本の漫画コンクールで受賞し、専門学校に留学するところから始まる。

 憧れの日本に来たものの、まあ、ひどい目に遭うのよ。そもそも画力がないのに、ミャンマーから初応募というだけで奨励賞に選ばれた裏事情がある。賞金はほぼ学費に取られ、生活費は雀の涙。激安だが幽霊が出る事故物件のアパートを契約。さらには倒れていた人を助けたら、鞄を引ったくられ、持ち金すべて奪われるという悲劇。気の毒すぎて謝りたくなるほど、日本は非情の国。そんな初回だったので惹かれたのだが、主題に興味がわかず、徐々に失速。

 借りた部屋に出るのは、エーミンが憧れていた漫画家・小鳥遊玲の幽霊。演じるのはももいろクローバーZの高城れに。NHKはももクロのドラマ起用に積極的だ。皆うまかったが例外も。得手不得手があるよね。

 棒演技だけが問題ではなく、そもそも玲の役どころが定まらない。2話で妙な着せ替えファッションショーの演出(しかも超ダサい)。これ、一番やっちゃいけないヤツや。物語と関係ない無駄な着せ替えはファンには垂涎でも、ドラマの質と格を地に落とす。「アイドル接待ドラマ」とみられるのは高城にとっても大損だ。

 自殺か変死か殺人か悲願か悲劇かわからず、テンションもわからず、ヒロインに心を寄せることができないまま。玲の元アシスタント(村上穂乃佳)や担当編集(和田正人)が登場しても、浅い漫画家エピソードのみ。初回からちらちら登場する怪しげな古舘寛治だけで最終回まで引っ張るのは厳しい。彼女が成仏できない理由に最後まで興味がわかず。NHKのよるドラは新奇性が売りの枠だが、今回は明らかに尻すぼみだ。残念。

 ただ、エーミンのバイト先のコンビニ(適当な店長の高橋努や正論を吐くバイトのナリン)の現状や、アパートの住民(子役の白鳥玉季ら)は興味深かった。クロ現やNスペ級の炙り出しを求めるのは酷だが、私的には念願の設定だったし。ドラマだけでもそろそろ自国礼賛をやめて客観視しないと、痛い国になっちゃう。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年10月29日号掲載

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