“ドラ1候補”が自ら情報発信…地方大学の有力選手がSNSでアピールする理由とは

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 いよいよ10月26日に迫ったドラフト会議。新型コロナウイルス感染拡大による甲子園大会の中止が大きな話題となったが、大学野球や社会人野球をはじめ、どのカテゴリーも実戦の機会が例年と比べて極端に少なくなっていることから、プロ側も最後まで判断に悩む年となりそうだ。

 しかし、そんな中でもドラフト候補たちに新たな動きが出てきている。自らSNSなどで発信する選手が増えてきているのだ。今年の有力候補である苫小牧駒沢大のエース、伊藤大海は、まさにそのひとりだ。

 駒大苫小牧では2年春に甲子園に出場し、駒沢大進学後も早くからリーグ戦に登板していたが1年秋に退学して苫小牧駒沢大に入学し直したという経歴を持っている。

 大学を移ったことによって1年間は公式戦に出場できない期間があったが、それが明けた2年春には北海道学生リーグMVP、ベストナイン、最優秀投手の三冠に輝くと、続く大学選手権でも好投を見せ、それ以降は大学日本代表の常連となるまでの実力を持つ。総合力では大学ナンバーワン投手とも言える存在だ。

 そんな伊藤もSNSでトレーニングや投球練習の動画を公開するなど、積極的に情報発信を続けている。またオープン戦での自身のピッチングについても解説しており、そのことが有効なアピールとなっている面もあるはずだ。

 社会人の野手でナンバーワンとの呼び声が高い今川優馬(JFE東日本)もSNSを活用するドラフト候補だ。

 昨年の都市対抗ではルーキーながら全試合に出場し、準決勝では昨年のドラフト1位宮川哲(西武)からホームランを放つなどの活躍を見せてチームの優勝に大きく貢献。自身も新人賞に当たる「若獅子賞」を受賞している。そんな今川のTwitterアカウントのフォロワー数は1万6千(10月6日時点)。元DeNAの投手で現在チームメイトである須田幸太のフォロワー数1万5千を上回っているのだ。甲子園のスターではないアマチュア選手のアカウントとしては驚異的な数字と言えるだろう。ただ、ドラフト会議を控えているためだろうか、現在は承認されたアカウントのみに限ってツイートを公開している状況だ。

 これだけのフォロワー数がいるのには、今川が辿ってきた野球人生に影響している部分も大きい。東海大四(現・東海大札幌)時代は2年夏まではベンチ外。チームは3年夏の甲子園に出場したが、自身は故障もあって背番号16で代打での出場に終わっている。大学は東海大北海道(現・東海大札幌キャンパス)に進学したものの、リーグ戦で結果を残すようになったのは3年生になってから。

 しかも4年春の大学選手権出場を決めながらもチームの不祥事で出場辞退という憂き目にもあっている。その後、プロ志望届を提出するものの、指名は見送られ、社会人に進むこととなったのだ。持ち味はその長打力と勝負強さだが、少しアッパー気味の癖のあるスイングを懸念する声も少なくない。しかしそんな声をかき消すだけの結果を残して、ドラフト候補となった姿に多くのファンは心を打たれるのではないか。

 この二人に共通しているのは、普段なかなか注目の集まらない地方の大学リーグでプレーしてきたという点である。プロのスカウト陣は、当然全国に情報網を張り巡らせてはいるものの、実際に目に付く機会となると首都圏や関西の大学が圧倒的に有利であることは間違いない。今川もSNSで発信する理由の一つとして「知名度を上げるため」とブログサービス「note」に投稿しているが、実力のある選手であればこの手段は非常に有効と言えるだろう。

 プロのスカウトはプレー以外の生活面や野球に取り組む姿勢も判断材料にしていると言われるが、今後はこういった“発信力”も問われる時代になってくるのかもしれない。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月19日掲載

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