「トランプ vs. バイデン」日本経済に利するのは? 短期のトランプ、中長期のバイデンか

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 米国大統領選、それは単に一国の指導者を決める選挙ではない。堕(お)ちたりとはいえ、米国が比類なき超大国である国際情勢は未だ変わらない。ならば、共和党のドナルド・トランプ(74)、民主党のジョー・バイデン(77)、両氏のどちらが選ばれるにしても、我々はその大統領に「地球号」の舵取りを任せることになる。

 9月30日に行われた第1回のテレビ討論会で、ふたりは「史上最低」と評される罵り合いを演じた。

 その2日後には、陳腐なマッチョイズムの極致とでも言うべき「強さ」を売りにし、ウイルスなどどこ吹く風とマスクをつけずにきたトランプ氏の新型コロナウイルス感染が判明。すなわち、「史上最高」の惨(みじ)めな強がりという「寸劇」を見せつけられる結果となったわけだ……。

 しかし日本の命運の少なからぬ部分が、トランプ氏もしくはバイデン氏の影響を受けるのは抗(あらが)いようのない事実。とりわけ、コロナ禍の喫緊の課題である経済再生を考えると、いくら罵倒合戦であろうが寸劇であろうが、世界は11月3日に投開票日を迎える米国大統領選から目を離すわけにはいかないのだ。では、両者のどちらが勝つことが、日本の経済にとって「マシ」なのだろうか。

「ふたりの経済政策の大きな違いは、まずトランプ氏が企業活動の規制を緩和する方針であるのに対し、バイデン氏は富裕層に対する増税や法人税率の引き上げを主張していて、企業活動を収縮させるような方向性であること。次に、対中国の姿勢を挙げることができるでしょう」

 こう説明するのは経済評論家の山崎元氏だ。前者の「規制」の観点で見ると、

「米国の経済界はトランプ氏の続投を望んでいます。米国の自動車業界からすれば、環境政策に消極的で、排ガス規制など気にしないトランプ氏のほうがありがたい。それは日本のトヨタや日産も同じでしょう。実際、トランプ氏のコロナ感染後、ダウ平均株価は下がりました。これは米国経済界がトランプ氏落選を恐れている証と言えます」

 第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏も、「短期的には」としてトランプ氏のほうが米国経済、そして日本経済にとってもプラスなのではないかと解説する。

「トランプ氏は法人税を35%から21%に下げましたが、バイデン氏はそれを上げると明言しています。これに加えて、株売買の際の利益であるキャピタルゲインに関しても増税すると言っている。バイデン氏になればダウ平均株価は下がり、日本の株価も当然影響を受けるでしょう」

 さらに経済アナリストの森永卓郎氏も、やはりあくまで「短期的」を前提にしつつ、景気の面ではトランプ氏のほうが喜ばれるだろうと見る。

「トランプ氏が勝てば、コロナ禍の経済対策第4弾として、またお金をばら撒くはずです。これによって米国の株価は支えられ、連動して日本の株価も安定する。一方、バイデン氏が大統領になった場合、感染対策もしっかりと行うでしょうから、経済活動にブレーキがかかる。実体経済のわりに株価が維持されていて、バブル状態とでも言うべき日本の株価も大幅に下落するのは避けられません」

クリーンエネルギー政策

 ならば、稀代の「寸劇王」と知りながらも、我々はトランプ大統領の2期目を期待すべきなのだろうか。否、先にあがった経済政策の差異の後者、つまり「対中」の視点から見直してみると、また違った側面が現れてくるのだった。

 前出の山崎氏が分析する。

「トランプ氏が変わらずに中国に厳しく、強硬姿勢を貫くのは間違いない。それに比べ、バイデン氏はそこまでではなく、同盟国と連携しながら中国と向き合うという、どちらかというと穏健派です。仮にバイデン氏が中国と上手く付き合えれば、例えばスマートフォンを作っている中国企業との取り引きが活発になるかもしれません。そうなると、液晶用ガラス等を作っている旭硝子(現AGC)や、カメラの素子を製造しているソニーは恩恵を受けることになるはずです」

 また「規制」と「対中」に加えて、

「トランプ氏が保護貿易、米国第一主義であるのに対し、バイデン氏が自由貿易、国際協調路線である点もふたりの経済政策の大きな違いです」

 として、ロータス投資研究所代表で株式ストラテジストの中西文行氏は今後をこう占う。

「日本経済、とりわけ多くの輸出企業にとっては、関税障壁で外国企業を排除する傾向の強いトランプ氏よりも、バイデン氏が大統領になったほうがいい影響がもたらされると思います。自動車業界のほかに、精密機器のメーカーなどは、内心、バイデン大統領を望んでいるのではないでしょうか。というのも、バイデン氏は国際協調路線に加え、アル・ゴア以来民主党が重視しているクリーンエネルギー政策を掲げ、電気自動車の普及を謳(うた)っています。パリ協定にも復帰すると言っている。日本企業は、省エネ化に関しては諸外国の企業と比べて一日の長がありますからね」

 具体的には、

「日本の蓄電池に関する技術は未だにトップクラスの国際競争力を維持しています。住友電工のレドックスフロー電池や日本ガイシの半固体電池、パナソニックの車載用リチウムイオン電池などは『バイデン大統領』で需要が伸びるでしょう。製品の省エネ化に取り組んできた家電メーカーも潤うのではないでしょうか」(同)

結局、ふたりの違いは…

 そう考えると、バイデン氏を歓迎すべきなのか。事実、先ほど「短期的にはトランプ」とした永濱氏は、

「中長期的には、3期目がないトランプ氏は後先を考えないで2期目にやりたい放題やってくる可能性があります。通商摩擦激化に加えて、格差等の問題で米国内の分断が加速することも懸念されます。米国が政治的に不安定化すれば、米国でのビジネスに影響が生じるリスクもあるでしょう」

 こう憂慮し、森永氏も同様に懸念する。

「トランプ大統領が2期目に突入すれば、遠からず米中戦争や環境破壊のリスクを抱えることになってしまい、日本経済も破滅的な打撃を受けかねません」

 さらにシグマ・キャピタルのチーフエコノミストである田代秀敏氏も、

「トランプ大統領は4年前に当選した直後から、トヨタの工場を全て米国に移転させるなどと主張していました。2期目に入り本格的にそれを強調し出すと、トヨタなど日本の自動車業界は苦しくなるでしょう」

 と、「トランプ攻勢」に警鐘を鳴らす。

 ここまでの識者の見解を総じてみると、株価維持など短期的な面ではトランプ氏に分があるものの、「対中」「環境」「中長期」の点で考えるとバイデン氏に利ありといったところか。しかし田代氏は、

「トランプ大統領が再選すれば、ツイッター投稿に適した単純で、即効性がありそうなことをぶち上げて日本から経済的利益をむしり取ろうとする。バイデン氏が大統領になれば、彼はずっとワシントンにいる米国政治の本流ですから、周りにいる優秀な官僚の知恵を借りて狡猾に、長期にわたって米国の利益を拡大しようとする。つまり、トランプ以前の対日政策に戻るわけです」

 とした上で、我が国の先行きを冷静にこう見通すのだった。

「結局、喩(たと)えるなら、トランプ氏は吸血鬼のように日本経済から血を一気に吸い取ろうとし、バイデン氏は蛭(ひる)のようにじわじわと吸い続けようとする――その違いではないでしょうか」

 どちらが大統領になろうと、「超米国依存」という「戦後レジーム」のツケを払い続けることに変わりはないのかもしれない――。

週刊新潮 2020年10月15日号掲載

特集「『トランプVS.バイデン』どっちに勝ってほしいか『日本経済の本音』」より

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