「菅総理」を抱き込む怪しい「政商」の正体 特捜部のターゲットになったことも

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 菅政権が発足するにあたって行われた人事の中で、唯一のサプライズと言っていいのではないか。

 安倍政権に批判的な立場をとっていた前共同通信論説副委員長の柿崎明二(めいじ)氏(59)の首相補佐官就任。直前まで報道機関にいた人物を首相補佐官に起用するのは史上初だというから異例の大抜擢である。首相と同郷の秋田県出身。毎日新聞を経て1988年に共同通信に入社し、政治部時代に野中広務元自民党幹事長から、当時1期生だった菅総理を紹介されて知り合ったという。が、柿崎氏が菅政権で政策の評価・検証を担当する首相補佐官に起用されたのは、菅総理との“付き合いの長さ”だけが理由ではない。その背景には一人の人物の存在があるのだ。

 政治系シンクタンク「大樹グループ」の矢島義也会長(59)。政官財界から芸能界まで幅広い人脈を有し、「永田町のタニマチ」「政界のフィクサー」の異名を取る人物だ。その人となりは後で詳述するが、矢島氏が誇る人脈の根は、マスコミ界にも広がっている。

「矢島さんは年に数回、『大樹会』と称される会合を催しています。会合の相手は主にマスコミ。テレビ局や新聞社の政治部幹部、週刊誌の記者などが顔を出すのですが、この会合のマスコミ側の中心人物が柿崎さんなのです」

 と、会合に出席したことがあるマスコミ関係者。

「会合の場所や記者の顔ぶれはその時々で違います。霞が関にあるビルの屋上でバーベキューをやったこともありますね。そのビルは松野(頼久・元代議士)さんが経営する会社が所有しており、最上階の9階には大樹グループの関連会社が入居していました。バーベキューで出された肉はサシの入った高級なものばかりで、お酒に関してはビールやワインの他、シャンパンも用意されていたと思います」

 その日の会費は1人5千円だったという。

「いつも会話の中心にいるのは矢島さんなのですが、その話の“流れ”を作るのは柿崎さん。真面目な政治や政局の話というより、仕事と関係のない笑い話が多かったと思います。もちろん、個々に矢島さんに聞きたいことがある人は隣に座って小さな声で相談したり、離れた場所で“密談”したりもする。矢島さんは一切お酒を飲まず、1次会だけで帰ります」(同)

 ちなみにこの会合には、本誌(「週刊新潮」)記者も何度か顔を出したことがある。

 政府関係者が言う。

「柿崎さんが矢島と親しいということは永田町では知られた話です。その上で柿崎さんを首相補佐官に起用したということは、背景に矢島が絡んだ人事と言っていい。菅総理は柿崎さんと矢島にメディアコントロールの役割を期待しているのでしょう」

 菅総理の「肝いり政策」のカギを握る別の重要人物を総理に紹介したのも矢島氏である。その人物とは、ネット証券最大手「SBIホールディングス」の北尾吉孝社長。ホリエモンこと堀江貴文氏のニッポン放送買収騒動の際にフジテレビ側の「ホワイトナイト」として登場した人物として記憶している方も多かろう。その北尾氏が菅政権を支えるキーマンとして急浮上したのは、総理が推し進める複数の政策に深く関わりを持っているためである。

 その一つは、本誌が8月27日号でいち早く報じた「国際金融センター誘致計画」。中国による統制強化が進む香港から金融機能が流出するのを「好機」と捉えた菅総理は、日本にその受け皿都市を整備する計画の検討を周囲に指示した。そこまでは良かったのだが、菅総理が受け皿都市の候補として提案したのは、世界3位の金融センターである東京ではなく、なぜか大阪と福岡だった――記事ではそうしたことをお伝えした。

「北尾さんは菅さんと歩調を合わせるかのように、大阪、神戸に国際金融センターを誘致する構想を掲げ、インタビューでは『日本の都市が国際金融センターの地位を獲得する最後のチャンス』などと語っています。また、8月上旬に北尾さんは大阪府の吉村洋文知事と会談。その際、吉村知事は金融都市構想に『大賛成』と話したそうです」(金融業界関係者)

 北尾氏の“援護射撃”はこれに留まらず、

「SBIは他企業に先んじて香港からの撤退を検討し始め、その旨をメディアに報じさせることにより、香港から大阪へ、という動きを自ら先導しています。もちろん、関西への国際金融都市誘致が成就したあかつきには、SBIがその『仕切り役』を担うことになるでしょう」(同)

 国際金融センター誘致計画についての記事を本誌が掲載した後、安倍前総理が退陣表明。総裁選に打って出た菅総理が麻生副総理兼財務相の支持を取り付けた背景に、麻生氏の地元である福岡を金融センターの誘致候補先としていたことがあったのは間違いなかろう。菅総理誕生後、「福岡案」が具体的に動き出しているのはその証左である。

「9月29日、福岡に国際金融機能を誘致するための組織『TEAM FUKUOKA』の設立総会が行われました。この組織の会長に就任したのは麻生副総理の弟で『麻生セメント』会長の麻生泰(ゆたか)氏です」(福岡経済界関係者)

 福岡が国際金融都市に相応しいかどうかはともかく、麻生副総理がその利権の「種」を育てようとしていることだけは確かなようだ。

 菅総理の誕生によって具体的に動き始めた「利権」は他にもある。「地銀再編」と「第4のメガバンク構想」。SBIの北尾氏はそこでも総理と強固なタッグを組もうとしている。

「地方の銀行は将来的には数が多すぎる」

 9月2日、総裁選への出馬表明会見でそう述べた菅総理は、翌日の会見でもこの話題に触れ、

「再編も一つの選択肢」

 と発言した。さらに同日、菅総理は北尾氏に連絡し、「地銀連合構想」の取り組みを続けるよう要請したというから、この件で手を組むことを隠すつもりもないようだ。

「北尾さんは昨年9月に島根銀行と資本提携したのを皮切りに、福島銀行の筆頭株主となったほか、立て続けに福岡の筑邦銀行、静岡の清水銀行、福島の大東銀行といった経営不振の地銀株を底値で買い叩いてきました。そして、それらの地銀を『SBI地銀HD』傘下に移行。SBIのノウハウを生かして再生させる、と主張しています」(全国紙経済部記者)

 その一方、「第4のメガバンク構想」についても着々と準備を進めており、

「菅さんが総裁選に出馬する直前、北尾さんは『地方創生パートナーズ』なる企業を5億円出資して新たに設立し、自ら社長に就任しています」

 と、先の金融業界関係者。

「その他の出資者は菅さんの地元の横浜銀行を核とするコンコルディア・フィナンシャルグループ、安倍前総理の地元の山口銀行を核とする山口フィナンシャルグループ、そして、以前から“メガバンクの仲間入り”が悲願だった新生銀行などです。こうした錚々たるメンバーを巻き込み、三菱UFJ、三井住友、みずほのメガ3行に肩を並べる『第4のメガバンク』を誕生させようとしている」

 北尾氏は“自分の時代が来た。日本の金融業界の構図は一変する”と周囲に話しているというが、菅総理側にもメリットはある。

「地銀はそれぞれの地域の名門企業であり国会議員とも繋がっている。菅さんはその命脈を握ることにより、全国津々浦々に政治力を行き渡らせられる。また、菅印のメガバンク誕生となれば物心両面で菅さんの権力の下支えとなります」(永田町関係者)

明らかになった「暗部」

 金融を巡って共同歩調を取る菅総理と北尾氏は4年ほど前に催された宴席に揃って顔を出している。その宴席の主役こそ、先述した「大樹グループ」の矢島氏だ。

 矢島氏の「結婚を祝う会」が開かれたのは2016年5月。そこには菅総理と北尾氏だけではなく、政官財界から錚々たるメンバーが顔を揃えた。

「菅さんは主賓。総理だった安倍さんがわざわざビデオメッセージを寄せ、乾杯の挨拶は当時自民党総務会長だった二階(俊博)さん。当時の林幹雄・経産相、遠藤利明・五輪担当相、加藤勝信・女性活躍担当相らの姿もありました。野党からは野田佳彦前総理が主賓格で出席。細野豪志、山尾志桜里、安住淳各代議士も来ていました」(永田町関係者)

 埼玉県知事や三重県知事といった自治体首長の他、

「官界からも幹部が多数出席しています。最も多いのは財務省で、その中には後のセクハラ事務次官、福田淳一氏の姿もあった。総務省、外務省、経産省、文科省などの幹部もいた。また、後に『定年延長問題』を取り沙汰されることになる黒川弘務氏も法務省官房長として出席しています」(同)

 矢島氏が政官界に張り巡らせた人脈を誇示するかのような会だったのである。

 長野県出身の矢島氏。地元の高校を卒業した後社会に出た彼は、30代後半だった頃に芸能界を揺るがす騒動を引き起こしている。

〈乱交パーティー「女衒芸能プロ社長」の正体〉

 写真誌「FOCUS」の99年7月21日号にはこんなタイトルの記事が掲載されているが、ここで芸能界の女衒として登場する人物こそ、矢島氏である。

「騒動の発端は月刊誌『噂の真相』の記事。東京のマンションの一室で週に1回ほど乱交パーティーが行われており、有名俳優や人気アイドルが参加していた、との内容でした」

 芸能記者はそう振り返る。

「タレントの相手をしていたのは女子大生やOLなどで、そのパーティーを主催していたのが、矢島氏だったのです。当時は矢島義也ではなく、義成と名乗っていました」

 かような人物が、後に時の官房長官を主賓として自らの結婚式に呼べるほどまでに“成り上がった”のだ。

 矢島氏が現在の大樹総研の前身である「S&Y総合経済研究所」を設立したのは「乱交騒動」の8年後の07年。Yは矢島氏の頭文字、Sは元民主党代議士で現在は浜松市長を務める鈴木康友氏を指す。

「当時、選挙に落ちて浪人中だった鈴木さんのために会社を作ったと言われています。その後、矢島さんは、鈴木さんと松下政経塾の同期である野田佳彦元総理に食い込み、政官界に人脈を広げていきました」(先の永田町関係者)

「結婚を祝う会」で矢島氏が誇った凄まじい人脈は、その集大成と言えよう。

「矢島さんは『矢島会』と称される会食を政治家や企業家と行っている。『矢島会』には『表』と『裏』があり、若手政治家が参加するのが『表』。一方、『裏』には、萩生田光一文科相や加藤勝信官房長官、三原じゅん子厚労副大臣など、結構な顔ぶれが参加します」(同)

 矢島氏はこうした人脈をどう金に変えているのか。

「元神奈川県藤沢市長で『大樹コンサルティング』の海老根靖典社長はインタビューで『全ての政党と深く関わりがあり、中央官庁とのいろいろなネットワークも持っていますので、政治的な働きかけができることは大きな強み』と臆面もなく豪語しています。これが、コンサル業として役所を動かしたり補助金を引き出すための最大の武器となっている」(経済誌記者)

 儲けのカラクリには不透明な部分が多いが、18年には「暗部」の一端が明らかになった。

「細野豪志代議士が『JC証券』から5千万円を受け取っていたことが発覚。選挙のための裏金と疑われた。この騒動の黒幕と言われたのが矢島氏でした」

 と、全国紙社会部記者。

「『JC証券』の親会社の『JCサービス』は太陽光事業などを手掛ける名目で投資家から200億円余りの金を集めたものの、事業は頓挫し、投資被害が発生。この『JCサービス』は矢島氏のコントロール下にある企業で、業務委託費などの名目で大樹総研に約5億円を支払っていた。この件には東京地検特捜部も興味を持ち、一時は本気で捜査していました」

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