「核武装中立」に突っ走る文在寅、朝鮮戦争終結宣言で「米韓同盟」破棄へ

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ひとりぼっちの韓国

――米軍が撤収しても同盟を維持する手はありませんか?

鈴置:理屈ではあり得ます。日米同盟の文脈でも語られる、いわゆる「駐留なき安保」です。ただ米韓同盟の場合、それは成立しにくい。自動介入条項がないからです。

 韓国が侵略された時、在韓米軍も攻撃を受けるからこそ、米国も参戦するのです。もし韓国に米軍が存在しなければ、米議会が派兵に反対し、韓国を見殺しする可能性もあります。

 少し前までなら、米国の安保担当者やアジア専門家が韓国救援を訴えたでしょう。でも、韓国の「離米従中」が知られるに連れ、米国の親韓派も急速に減っています。

 韓国人も首筋に冷たいものを感じ始めたようです。10月6日、東京で日米豪印(Quad)4か国が外相会合を開き「自由で開かれたインド・太平洋戦略」の連携強化を謳いあげました。事実上の中国包囲網です。

 米国のM・ポンペオ(Mike Pompeo)国務長官はこの会議に出席した後、10月7日に韓国を訪問する予定でしたが、直前にキャンセルしました。トランプ大統領がコロナに感染したためと韓国政府は説明しています。

 しかし朝鮮日報はこのニュースを「米国の中国牽制にソッポ向いたら、『同盟内でひとりぼっち』の状況に」(10月5日、韓国語版)の見出しで報じました。

 韓国政府はQuadへの参加を拒否したうえ9月25日、康京和(カン・ギョンファ)外交部長官が「他国の利益を自動的に阻害する」とQuadそのものを非難しました。

 韓国の保守派はいつ米国に見捨てられるか、と戦々恐々としています。ポンペオ訪韓中止は、彼らの目には「ついに始まったお仕置き」に映ったのです。

非核化と取引される米韓同盟

――そうは言っても、米韓同盟が残っています。

鈴置:その米韓同盟さえも、北朝鮮の非核化の見返りに廃棄しようとの発想が米国に生まれています。この取引は2017年4月の米中首脳会談で、習近平主席がトランプ(Donald Trump)大統領に持ちかけた模様です。

 トランプ大統領も「韓国は歴史的に中国の一部だった」と語ることで、取引に前向きの姿勢を示しています(『米韓同盟消滅』第1章「離婚する米韓」参照)。

――米国との同盟を失った韓国はどうするのでしょうか?

鈴置:米国の核の傘を失うわけですから、新たな「傘」が必要になります。周辺の核保有国は中国、ロシア、北朝鮮の3か国ですから、そのいずれかの核の傘に入る。それが嫌なら自前の核を持つ。どちらかです。

 現時点では、韓国は自前の核保有に邁進しています。「日本への毒針? 原潜保有を宣言した文在寅政権 将来は『核武装中立』で米韓同盟破棄」で指摘したように、まずは核弾頭の運搬手段を必死で整備しています。

 核弾頭を完成するのには数か月もあれば可能。しかし、ミサイルなど運搬手段には長い時間がかかるからです。軍事用に最適の固体燃料のミサイルを開発。さらにはその射程も伸ばし、東京や北京を窺うまでになりました。

 核武装の意思を明確に世界に示したのが8月10日でした。国防部が大型のミサイル潜水艦を建造すると表明。その少し前に青瓦台(大統領府)が「次に建造する大型潜水艦は原子力駆動」と明かしていました。

 核保有国は先制核攻撃を受けた際にも破壊されず、核で反撃する第2撃能力を持つのが普通です。それが長期間、隠密に海中に潜めるミサイル原潜なのです。だから、原潜を持つ国は皆、核保有国です。

核を持つには同盟が邪魔だ

――なぜ、韓国は原潜保有の意思を表明したのでしょうか?

鈴置:そこがポイントです。原潜保有は核保有を意味しますから、普通はあからさまに言いません。周辺国に警戒され、牽制されるからです。

 日本政府がいくら平和ボケとはいえ、原子力関連の素材の対韓輸出にはより神経質になるでしょう。韓国はWTO(世界貿易機関)に「日本は不当に輸出を規制している」と訴えていますが、日本が韓国向けの輸出管理を緩める可能性は極めて薄い。むしろ、さらに強化する方向でしょう。

 韓国が敢えて原潜保有の意思を明らかにしたのは、「隠しても米国にはすぐにばれる」との判断に加え、米国との同盟にこだわる人々を説得する目的もあると思います。

 在韓米軍撤収に反対する人に対し「米韓同盟がなくなったって、自分の核を持つから大丈夫だ」と説けば、納得する人も出てくると思います。

 核に象徴される「強力な軍事力」は民族の悲願です。意識調査によれば、3分の2の韓国人が核武装に賛成しています。それと引き換えなら、国民全体が同盟廃棄に傾いても不思議ではありません。

 逆から言えば、米韓同盟を結んでいる間は米国から核武装を許される可能性は低い。核を持つには米国との同盟を打ち切るしかないのです。

 それに、先ほども説明したように、韓国では「中立化」自体には悪いイメージはなく、民族自立の象徴とさえ考えられているのです。

「同盟はいつまでも続けぬ」と言い切った駐米大使

――韓国が核武装に動くとは、想像もしていませんでした……。

鈴置:別段、驚くことではありません。朴正煕(パク・チョンヒ)政権も核武装を試みました。東西冷戦の緊張が緩和した1960年代末から1970年代にかけ、米国が在韓米軍の撤収に動いたからです。

 結局、核武装計画は米国によって阻止され、在韓米軍も削減はされましたが完全な撤収は避けられました。朴正煕大統領の目指した核を含む自主国防体制の確立を、今度は左派政権が実行に移そうとしているだけなのです。

――もし、韓国が核武装に失敗したら?

鈴置:先ほど申し上げたように、左派政権が続くなら中国かロシア、あるいは北朝鮮の核の傘に入ることになります。韓国が核武装しようがしまいが、日本は安全保障上の危機を迎えるのです。

 10月12日、韓国国会の国政監査にリモートで参加したイ・スヒョク駐米大使は「韓国が70年前に米国を選んだからといって、今後70年間も米国を選択せねばならないというのか。国益に合致して初めて米国を選ぶということだろう」と語りました。

 駐米大使が、米韓同盟が国益につながるとは限らない、と言い切って同盟破棄を示唆したのです。朝鮮日報の「駐米大使がこんな発言『70年前に米国を選んだからと言って、今後も?』」(10月13日、韓国語版、動画付き)で発言を確認できます。

 日本に残された時間は少ないようです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月13日掲載

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