セブンと法廷闘争、東大阪「時短オーナー」の今 「大工やウーバーやって生活してます」

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セブンをはじめるキッカケ、やめるキッカケは「妻」

――2018年に奥様を亡くされ、スタッフの確保に苦労し、24時間営業を止めることになったと聞いています。店を始めるのも奥様がきっかけだったとか。

「大学を卒業したあと、3年間だけアメリカに留学させてもらって、その後に父の工務店を継ぐことになっていました。現地ではJTBで働きながら英語の勉強をしました。で、約束通り3年で帰ってきたのですが、どうしてももう一回、アメリカに行きたかった。工務店で働きながら資金を貯めていたときに、嫁さんと出会ったんです。

 請け負ったリフォーム先の施主さんが、後の義姉になる人だったんですね。『妹に会ってほしい』と言われて家に行ったら……ものすごく良い子で『こりゃアカン!』と参ってしまった。この子しかいない!と思いました。嫁さんは日本舞踊の師範代で、お父さんは地元医師会の会長という家柄。私の母は『ウチとは住む世界が違う』『釣り合わない』と最初は反対しました。だけど、嫁さんのご両親もとてもいい人で『もったいなさ過ぎるけど』と言いつつ、認めてくれました。だからアメリカ行きの資金は、全て結婚資金に変わってしまいました」

――奥さんに出会わなければ、アメリカに行ってたし、セブンもやっていなかったんですね。

「アメリカでセブンをやっていたかもしれませんけれど(笑)。僕は喫茶店か旅行代理店をやりたかったんです」

悩めるコンビニオーナーへ

――今の生活は収入も減り、厳しいのではないですか?

「お金はないけど、時間はたっぷりありますからね。今年24歳になる、セブンの店長もやっていた息子と2人で旅行しています。車中泊をしながら、今まで一度もいけなかった、九州の親戚を廻ったり。こんな素晴らしい人生もあったのかと思い返していますよ」

――とはいえコンビニオーナーの中には、全財産を賭けてやってる人もいますし、そういう人は辞めるのは躊躇しますよ。辞めるに辞められず自殺したなんて報道もあります。

「そんなもんどうにかなるんですよ。自殺するくらいなら店を辞めたら良いんです。子育て中の子供がいても、夫婦それぞれ15万円ずつの収入があれば、30万円ぐらいになるじゃないですか。自由な時間もとれますし、店をやっているより良いでしょう」

――たとえば私は42歳ですが、子供が小さかったりするし、躊躇すると思いますよ……。

「40歳? 若いですよ。ナンボでも仕事ありますし、やり直せます。利益の出せているオーナーさんは良いですが、そうでないところは、一刻でも早く抜け出すことをおすすめします」

――私の知っている元オーナーさんや元社員さんの中には、「もうコンビニは行きたくない」とトラウマになっている方もいます。松本さんは今もコンビニを使いますか?

「ほとんど使いません、コンビニの食べ物は飽きましたしね。公共料金の支払いだけは使いますね」

――やはりコンビニ時代の嫌なことを思い出す?

「そうですね。とくに万引きにはストレスを感じました。お客だけでなく従業員にレジのお金をくすめられた事もありました。最初はレジの違算(売り上げと異なる会計額)は自分で補填していたんですが『このままではアカン、ボロボロにされてしまう』と思って監視カメラでチェックしたりして、厳しくしたんです。そんなことを今でもコンビニに行くと思い出します」

――最後に。元オーナーの立場からコンビニ業界の待遇改善を訴えて裁判で闘っている、今のお気持ちを。

「やはり、生きがいを持つことは何にもまして素晴らしいことだと思っています。私はいま、業界の待遇改善のために闘っていますが、誰かに必要とされていることが、生きる証だと思っています。他人のために何かが出来る事。これほどいいことはないですね。コロナで皆大変な時だからこそ、余計にそう思います。それに私、まだ元オーナーじゃないんです。加盟店契約解除無効を求めて争っている身なんです。店を取り返すために戦っているんです。まだ、現役オーナーですからね」

角田裕育(すみだ・ひろゆき)
ジャーナリスト。兵庫県神戸市出身。北大阪合同労働組合青年部長、人民新聞記者などを経てフリーに。著者に『セブン-イレブンの真実~鈴木敏文帝国の闇~』(日新報道)、『教育委員会の真実』(宝島社)。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月12日掲載

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