「コロナうつ」には外出、運動、肉が効く? 急増する自殺の防ぎ方

ライフ 週刊新潮 2020年10月8日号掲載

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 新型コロナウイルスの新規感染者数は、相変わらずニュース番組等で毎日伝えられている。感染者がどれだけ死亡したか、その数もそれなりには伝えられている。一方、自殺者数は報じられないので、この新型コロナ禍で追い詰められ、自ら命を断った人たちの姿は、市井からは見えにくい。

 しかし、自死の主体が芸能人なら事情は違う。死はニュースになり、死因も伝えられる。7月18日に俳優の三浦春馬(享年30)が自宅で首をつり、世間に衝撃が走ったのを皮切りに、9月14日には女優の芦名星(同36)が同様の死を遂げ、20日には俳優の藤木孝(同80)が命を断った。それからわずか1週間の9月27日、今度は女優の竹内結子(同40)である。

 むろん自死の連鎖は、芸能界の特殊な事情によるものではあるまい。厚生労働省と警察庁が集計した速報値によれば、8月の自殺者数は1849人で、前年同月比で246人増えていた。月並みなたとえだが、芸能人たちは報じられて海から顔をのぞかせた氷山の一角で、その下には人知れず命を断った人とその予備軍が、夥しい数、隠れていると考えるのが自然だろう。

 この数カ月の間、「命を守る」という大義名分が掲げられ、外出や人との接触を避けるのが善とされてきた。その影響で多くの人が経済苦にあえぎ、引きこもってうつになる人も増え、自殺者増につながる――という懸念を、本誌(「週刊新潮」)は以前から示してきた。それがいま現実になりつつある。

 人事ジャーナリストの溝上憲文氏によれば、ふつうの勤め人の間では、こんなことが起きているという。

「4月の失業率は2・6%と、前月比0・1%の上昇にとどまりましたが、にもかかわらず、就業者数は3月の6700万人から6628万人へと、70万人以上も減りました。実は失業率は、“15歳以上の労働力人口のうち、働く意欲がある人”を母数に“働く意欲はあるのに職を失ってしまった人”を測る指標。失業率があまり上昇していないのに就業者が大幅に減少したのは、“働く意欲がない人”が増えてしまったことを意味します。外に出ることを恐れて退職したり、職がないままあえて家に引きこもったりした人が、一定数いたということです」

 新型コロナ禍においては、非正規雇用者などにしわ寄せがおよんだと伝えられていた。事実、非正規雇用者の総数は3月に2150万人だったのが、7月には2043万人と、100万人以上減ったが、コロナ禍の影響は、すでに大企業の正社員にもおよんでいた。

「広告関係の大企業は、緊急事態宣言下で出社人数を8割ほど減らしていましたが、宣言解除を受けて5~6割まで出社可能に戻した。すると正社員の一人が、出社再開初日に辞表を提出したというのです。別の大企業では、40代で家族もいる男性正社員が、出社再開2日目にうつ病の診断書とともに休職届を提出したと聞きました。ほかにも“出社するのが怖いから”と退職届や休職届を出した正社員がいる企業は一定数あるようです。2~3カ月におよんだ巣ごもり生活が影響している可能性が高く、こうした変化が自殺者数の増加に影響している可能性も考えられると思います」

 このコロナ禍において人が追い詰められるうえでは、経済的事情のみならず、恐怖や不安をはじめ、ありとあらゆる要因があるということだろう。

増える自殺相談の驚愕の内容

「巣ごもり生活の影響」という意味では、芸能人も変わりない。放送作家の山田美保子さんが言う。

「コロナ禍のステイホームで、舞台のお仕事が中心の方などは、まったく仕事ができなくなって、経済的にも本当につらかったと思います。また映像のお仕事が中心の方も、バラエティの方はまだしも、俳優さんたちは、お仕事があるときとないときがはっきりしています。芦名星さんなどは給料制だったのが4月に歩合制に変わってしまい、不安を抱えていたともいわれています。そもそも芸能人は、イメージこそ華やかですが不安定な職業で、社会的信用度も低く、お金もなかなか借りられない。自殺の背景には、経済的理由もあったかもしれませんね」

 テレビにはいつも芸能人の姿があるから、誤解しがちだが、孤独に巣ごもる人も多かったのだろう。

「4~5月は、芸能人が外を歩いているところを写真に撮られ、非難されましたが、そういう点でも気を遣い、ずっと家にいることが多くなっていたと思います。目標をもって頑張ってきた仕事が軒並みなくなり、悩みやストレスを抱えながら、多くの芸能人は発散できず、相談できない、ということはあったと思います」

 コロナ禍において、芸能人もまた経済苦や孤独を抱えていた――。それは昨今の自殺志願者が置かれている状況そのものだと言えそうだ。NPO法人「自殺防止ネットワーク風」の篠原鋭一理事長は、

「新型コロナウイルスの流行を境に、自死を考える人からの相談件数も内容も大きく変化しました。全国52カ所にある私たちの相談窓口に寄せられる相談は、以前は平均して、1カ所につき1日5~7件程度でしたが、3月以降は1・5~2倍に増え、毎日10件程度の電話がかかるようになった。しかも半数は、新型コロナにからんだ内容です」

 と話し、驚くべき相談内容を明かしてくれる。

「一つが、経済悪化により金銭苦を抱えての自殺相談で、20代半ばまでの若い人からは“派遣切りに遭って収入を失った”というものが多い。80代の母親を介護している60代女性は、“寝たきりの母がいるのに派遣切りに遭った。母を殺して自分も死にたい”という相談でした。40代男性からは“すし職人として修業を終え、5年前にやっと自分の店を出したが、まだ借金があるのにコロナの影響で店が立ち行かなくなり、妻が自殺してしまった。自分も死ぬために海に向かっているところだ”という電話がありました。“後追いしても奥さんは喜ばない”と伝え、来て話すように促しましたが、その後、男性から連絡はありません。シングルマザーの相談は“派遣切りに遭い、食べるものがなくなった。子どもは給食で栄養をとっていたのに、学校が休みで給食が食べられない。親子で飛び込み自殺をしようと思う”という内容でした。この方は、近くにいたうちの組織の人間が手伝って、なんとか生活保護を受給できるようになりましたが……」

 続いて、家庭が崩壊して自死を考える人も多く、

「都内の会社に勤める男性は、感染者が増えるのを見て“東京にいられない”と考えた奥さんが、子どもを連れて実家へ帰ってしまった。しかも離婚届が送られてきたので、驚いて電話すると義母が出て“娘と孫を殺す気か?”と。家族に会えなくなると、この男性のように自死を考えてしまう人もいるのです。次に、孤立してしまった高齢者からの相談です。隣近所や趣味のコミュニティでの会話がなくなり、世の中から捨てられてしまったように感じてしまうのです。都内で一人暮らしをする高齢男性は、最後の拠り所を求めて地方にいる縁者に“行ってもいいか”と電話をして、“絶対に来ないでくれ”と断られ、家族からも捨てられてしまった気分になり、自死を考えたそうです」

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