DeNA「佐野恵太」、ヤクルト「村上宗隆」に続くのは…12球団“生え抜き”4番打者事情

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 ペナントレースもいよいよ終盤に入り、優勝の行方とともに、個人タイトル争いも白熱してきた。その中で目につくのは、セ・リーグ打撃部門で、DeNA・佐野恵太が打率トップの.339、ヤクルト・村上宗隆が.319で2位につけていること。本塁打数も佐野が15本、村上が20本とまずまずの結果を出している(いずれも10月6日現在)。2人の共通点は、不動の4番だった筒香嘉智、バレンティンが抜けたあと、生え抜き4番として、その穴を埋めている点だ。

 DeNAの4番は、大洋時代の1980年代半ばから助っ人中心だったが、2000年代後半から村田修一、筒香と生え抜き4番のパターンが定着。その筒香がメジャー移籍した今季、ラミレス監督から主将に指名され、開幕から4番を任されているのが佐野だ。

 昨季後半、11試合4番を経験し、打率.316と結果を出したことで、“ポスト筒香”の試験に合格した。3年間で10本塁打しか記録していないドラフト9位の男が、4番に座り、自身初のシーズン二桁本塁打を記録するのも、野球の面白さである。

 一方、ヤクルトでは畠山和洋以来の生え抜き4番・村上は、昨季、三振の山を築いても辛抱強く中軸で起用しつづけた小川淳司前監督の我慢が実を結び、10代史上最多の37本塁打をはじめ、数々の10代記録を塗り替えた。そして、バレンティンがソフトバンクに移籍した今季は安定感も増し、開幕から不動の4番を守りつづけている。優勝争いに絡まないチームで伸び伸びと経験を積めたという意味では、チーム環境も生え抜き4番の育成に大きな影響力があることがわかる。

 今度は他の10球団の生え抜き4番事情を見てみよう。生え抜き4番が最もスムーズに世代交代を繰り返しているのが広島だ。

“ミスター赤ヘル”山本浩二の引退後、小早川毅彦、江藤智、金本知憲、新井貴浩、栗原健太、鈴木誠也と、ほぼ途切れることなく続いている。特に00年以降は、4番が次々にFAで抜けていく逆境のなか、順調に新芽が開花。相次ぐ主力の流出が、結果的に新陳代謝を円滑にしていると言えるだろう。

 巨大補強のイメージが強い巨人も、90年代半ば以降、落合博満、清原和博ら移籍組が4番に座ったシーズンもあるが、基本的には原辰徳、松井秀喜、阿部慎之助と生え抜き4番路線を踏襲。現在も岡本和真がこの流れを受け継いでいる。

 西武は、清原の巨人移籍後、不動の4番・カブレラの時代が7年間続いたが、09年以降は中村剛也、浅村栄斗、山川穂高と10年以上にわたって生え抜きが4番の座を守りつづけ、人材には事欠かない。70年代半ばから助っ人や移籍組の4番が主流だった日本ハムも、11年以降は中田翔が“チームの顔”に定着した。

 ソフトバンクは、小久保裕紀、松中信彦以後、13年に松田宣浩、18年に柳田悠岐がチームでシーズン最多の4番出場をはたしたが、シーズン100試合以上務めた生え抜き4番は、10年の小久保を最後に途絶えている。

 今季もバレンティン、グラシアル、デスパイネ、中村晃、柳田、プロ15年目で初の4番抜擢の川島慶三ら8人が入れ替わる“真の4番”不在の状況だが、8月に7試合続けて4番起用された高卒6年目・栗原陵矢の台頭は、主力野手の高齢化が進むチームにとって明るい材料だ。

 その一方で、10数年から長いものは30年以上も、生え抜き4番が定着していないチームも半数近くに上る。「球が速い、遠くへ飛ばすといった能力は、天性のものなので、エースと4番は育てることができない。チームに真の意味でのエースや4番がいないときは、外から連れてくるしかない」と語ったのは野村克也氏だが、これらの球団は、外から連れてくるパターンからなかなか脱却できないでいる。

 球団創設以来16年間、生え抜き4番が育っていないのが楽天だ。初年度の山崎武司以来、移籍組や助っ人が頼りで、今季も移籍組の浅村が4番を打つ試合が多い。島内宏明や茂木栄五郎は明らかに“4番目の打者”。現時点で最も可能性を秘めている内田靖人のさらなる成長が待たれる。

 オリックスも、T-岡田が11年に124試合4番を打ったのを除くと、毎年のように4番がめまぐるしく変わり、その大半は助っ人や移籍組。石嶺和彦以来の不動の生え抜き4番に一番近い位置にいるのは、やはり吉田正尚だ。

 中日も80年代前半の谷沢健一、大島康徳以来、30年以上生え抜き4番が定着していない。05年以降、平田良介、堂上直倫、高橋周平と4番候補をドラフトで獲得したが、なかなか結果が出ない。天性の素質はあっても、開花させるのがいかに困難であるかがわかる。

 阪神も80年代半ばの掛布雅之を最後に、生え抜き4番が育たず、00年代以降も金本知憲、新井貴浩ら“外から連れてきた”4番が続いた。だが、昨季、生え抜き4番の育成を理想に掲げる矢野耀大監督から指名された大山悠輔が、00年の新庄剛志以来、生え抜きでは19年ぶりに100試合以上4番で出場。今季は8月後半からサンズに4番を譲ったものの、巨人・岡本と本塁打王争いを演じるなど、ようやく長いトンネルの出口も見えてきた。

 阪神同様、本腰を入れて生え抜き4番育成に乗り出したのがロッテだ。落合流出後、30年以上も生え抜き4番が定着していないが、そんな状況を打破すべく、井口資仁監督は7月21日の西武戦から3年目の安田尚憲を“仮免4番”に抜擢。打率2割前半で、本塁打も2ケタに届いていないが、10月3日の西武戦で決勝3ランを放つなど、“第2の村上”への道を歩みつつある。真の主砲になれるかどうか、これからが正念場だ。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2019」上・下巻(野球文明叢書)

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月10日掲載

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