アニメ「ポケットモンスター」がゴールデン枠に再挑戦 背景に緻密なファン拡大戦略

エンタメ 2020年10月09日

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オトナ化の立役者は…

 好調に見えるポケモンだが、2010年代半ばには、ブランド力の翳りがしばしば指摘されていた。たとえば、代表的なメディアフランチャイズである劇場アニメ版は毎年新作が公開されているが、03年から11年頃までの興行収入は40億円超えがほぼ当たり前の状態にあった。ところが12年以降、興行収入は5年連続で前年比マイナスとなる。16年には21・5億円と、20億円割れ寸前にまで追い詰められた。従来のファンが成長と伴にポケモンから卒業する一方で、新しい世代のファンを充分掴み切れなかったのである。

 これを契機に、ポケモンブランドは大胆な変貌を遂げる。そこからポケモンの復活が始まる。大きな成功を収めた要因は、新しい世代以上に「オトナ」市場の開拓をしたことだろう。

 ポケモンを、小さな子供向けコンテンツだと思っている方は多いかもしれない。ところが、いま街を見回すと、大人向けのポケモングッズが溢れている。ユニクロのポケモンTシャツにはきちんと大人サイズが用意されているし、ジュエリーやワイシャツといった商品もある。かつてのファンの懐かしさに訴えると同時に、洗練されたデザインを起用することで、大人も受け入れられるキャラクターとなっているのだ。この夏には世界的な現代アーティストのダニエル・アーシャムが、ポケモンを題材に彫刻を制作し、渋谷のギャラリーで発表した。ポケモンは最早アートですらあるのだ。

 何より大人世代にポケモンを浸透させた立役者は「ポケモンGO」だろう。2017年にナイアンティック社がリリースしたスマホアプリゲームの世界的な大ブームは記憶に新しい。今も「中年」や「初老」とされるような世代の人々がプレーする姿を見かけるから、もともとポケモンに触れてこなかった世代も開拓したわけだ。ただ「ポケモンGO」は、あくまで大人層に浸透した表れのひとつに過ぎない。2019年には『名探偵ピカチュウ』がハリウッド映画として実写化され、大ヒットを記録した。映画化にあたっては、アニメでの映像化も選択できたはずだ。しかしあえて実写映画にすることで、アニメになじまない世代もとりこみ、幅広い年齢層の獲得を目指した。ポケモンはさまざまなアプローチ方法を採っているのだ。

 9月29日に、ポケモンの公式YouTubeチャンネルが配信した動画も象徴的だ。長さ3分あまりの動画は、人気アーティストのBUMP OF CHICKENが歌う「GOTCHA!」のミュージックビデオになっており、映像は歴代のポケモン作品をオマージュしたアニメに仕上げられている。公開から5日間で再生回数は800万回超え。まだまだ伸びる勢いだ。BUMP OF CHICKENのコアファンが20代から30代ということを考えれば、いまや購買意欲が旺盛な消費者となっている、かつてポケモンを楽しんだ人たちをターゲットにしていることは明らかだろう。

海外でも

 こうした流れは日本だけに限らない。ファンの世代拡大は海外でも広がり始めている。2000年代の初め頃、アメリカのアニメイベントを取材しても、当時すでに大人気だったはずのポケモン関連のグッズを会場で見ることはほとんどなかった。アニメイベントの来場者の中心はハイティーンから20代だからだ。同じアニメでも、こうしたイベントにポケモンは入る余地がなかったわけだ。

 ところがここ数年は状況が変わっている。海外のイベントでは、しばしばポケモンのコスプレ姿を見かけ、会場でもグッズが売られている。ポケモンは、20代が好きと言っても恥ずかしくないキャラクターになっているのだ。9月にアメリカで行われたオークションでは、1999年に発売されたポケモントレーディングカードゲームの未開封ボックスが、2100万円で落札され、世の中を驚かせた。それだけのお金を出せるファンがいるわけだ。

 子供向けのキャラクターの多くは、子供の成長と伴にユーザーが離れ、振り返られなくなるのが常だ。「世代を超えたキャラクター」になったのは、「名探偵コナン」や「ワンピース」「ガンダム」「ハローキティ」などごく少数だ。こうした作品と較べるとポケモン本来のターゲット層は、最も年齢が低く、全世代化のハードルは高い。とくに海外では、「キャラクターコンテンツは子ども向け」と考える傾向は日本以上に強い。だが、ポケモンはそのどちらの壁も越え始めている。

 今やポケモンは世界的に全世代から愛されるキャラクターとなり、時代を超えたアイコンになった。将来はディズニーのミッキーマウスの様に、時代も国境も越えて生き続けることになるのかもしれない。

数土直志(すど・ただし)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。アニメーションを中心に国内外のエンターテインメント産業に関する取材・報道・執筆を行う。大手証券会社を経て、2002年にアニメーションの最新情報を届けるウェブサイト「アニメ!アニメ!」を設立。また2009年にはアニメーションビジネス情報の「アニメ!アニメ!ビズ」を立ち上げ、編集長を務める。2012年、運営サイトを(株)イードに譲渡。2016年7月に「アニメ!アニメ!」を離れ、独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月9日掲載

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