「伊藤詩織さん」が「TIME」の100人に選出 “逮捕もみ消し”は菅総理の側近で…

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 いくら闇に葬り去ろうとしても、世界は犯された罪を忘れない。そう思わせる快挙である。9月23日、米「TIME」誌は、2020年版の「世界で最も影響力のある100人」にジャーナリストの伊藤詩織さん(31)を選んだ。発端となった事件の逮捕状がもみ消された当時、政権中枢にいた菅義偉総理たちの胸中は如何に。

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 日本から選出されたのは、詩織さんとテニスの大坂なおみ選手(22)の二人だけ。世界の眼が、この事件に並々ならぬ関心を持っていることが窺えるのである。

 2015年4月、詩織さんへの準強姦容疑で逮捕状が出ていた山口敬之元TBSワシントン支局長(54)。時の政権と太いパイプを持ち、“総理ベッタリ記者”との異名を持つからか、令状は、官邸に近い当時の中村格(いたる)警視庁刑事部長によって握りつぶされた。

 そこで詩織さんは17年5月に本誌(「週刊新潮」)で初めて事件を告発。後に会見で実名告発に踏み切ったことで、他のメディアも彼女の存在を大きく取り上げたのだ。

 当の詩織さんに聞くと、

「事件を告発して以来、これまで私には、耳を塞ぎたくなるようなラベルがいくつも付いて回りました。でも今回、タイムの『世界で最も影響力のある100人』に選んでいただいて、あらためて、私は私でいいんだ、伊藤詩織として生きていいんだと、後押しをしていただいたような想いがしています。同時に、私と同じように生きている人々に対しても、私たちは堂々と生きていいんだよ、人に話したくないような辛い過去と生きていたって、笑顔で道を歩いていいんだというエールになったと思っています。これを機会に今後、少しでも、真実が明らかになって欲しいと願っています」

警察庁ナンバー2

 結果的に刑事訴追を免れた山口氏を相手に、詩織さんは民事で係争中(一審は勝訴)だが、SNS上で起きた自身への誹謗中傷に対しても、訴訟を起こし闘いを続けている。

 国際政治学者の三浦瑠麗氏が言う。

「これまでも、伊藤さんのような思いをした人たちはたくさんいて、仮に声を上げても、黙殺され、加害者が大手を振って社会的な立場を維持している状況に対して、臍(ほぞ)を噬(か)んで見ていることしかできなかった。一連の彼女の行動は、そういった日本人の常識を変える一助になったと思います」

 問題なのは、前述の逮捕状もみ消しを図った人物が、権力の階段を昇り続けていることだろう。中村氏は今や警察庁のナンバー2である次長に昇進、来年以降の長官就任に“王手”をかけた。その彼を、官房長官時代に秘書官として重用したのが菅総理なのだ。本誌既報の通り、菅総理は周囲に「警察庁長官になる人物」と評するほどお気に入りだった。

「大きな権力構造の中で、一人の女性の尊厳が冒され放置されることは、絶対にあってはならんことです」

 と憤るのは、漫画家の小林よしのり氏。この事件を作品で扱い、山口氏から民事で提訴されてもいる。

「自分たちの仲間の男が、女性をレイプしたからといって、たいしたことではないとしてしまう感覚が軽すぎるとワシは思う。権力の座に就くと真っ当な善悪の基準が通用しなくなってしまうのだろうね。絶対にダメだと分からせるためにも、伊藤さんが100人に選ばれたことは痛快です」

 最後に、イタリアの劇作家、ヴィットーリオ・アルフィエーリの悲劇「アンティゴネ」から、この言葉を彼らに贈ろう。

「汚名は刑罰になく、犯罪そのものにある」

週刊新潮 2020年10月8日号掲載

ワイド特集「ご利益にあずかりたい」より

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