ノブコブ徳井が恩人・東野幸治を「腐り狂った超天才」と評する理由とは

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東野幸治が生放送で緊張しない理由

 生放送は緊張する。絶対に笑いを取らなきゃいけないし、言ってはいけないことを口にしないというルールがあるからだ。僕は、生放送が苦手だ。そう相談すると、少し笑いながら「真面目やなぁ」と東野さんは口を押さえた。

「徳井くんの言っていることは分かる。分かるけど、そんなもん関係あらへんねん。俺は、こいつらよう俺みたいなもんにMCなんかやらすなぁ、思いながらやってるよ」

「本番中に無茶なこと言うとか、下半身を出してやろうとか、そういうことですか?」と、僕がまた凡人の質問をする。当然違う。

「一言も喋らんまま、終えてやろうって思てるな。ま、喋るんやけどな、結局は。そんくらい、俺みたいな腐ってて狂った人間を信頼して生放送のMCをやらすなんて、こいつら馬鹿やなぁって思いながら仕事してんねん。だから、緊張はせえへん」

 これはもう目玉がこぼれ落ちるかと思うくらい感心した。素直に自分も考え方を変えようと思った。

「飲み会は全部断ってきた」

 続いて、芸能界とは切っても切れない飲み会について。昔ほどではないにせよ、正直、パワハラと感じることもある。忘年会、新年会、打ち上げにホームパーティー。僕は、これらに行くのが大嫌いだった。今でも行くのが億劫で、1週間前から憂鬱になる。

 質問に対する東野さんの答えは「俺は行かんかったな全部」と、とても正直なものだった。

「今までの長い芸能生活でもそういう、自分が少しでも嫌だな、と思った会に行ったことは5回もないんじゃないかと思う」

「けど、断りづらいのもあるじゃないですか、どうやって誤魔化すんですか?」と聞くと、「全部正直に答えんねん」と教えてくれた。

「僕、行ったとしても不機嫌になるだろうし、無理矢理テンション上げるのもしんどいし、行ったらみんなが嫌な気持ちになるんで、今回はすいません、行けません」

 そんなことを繰り返し言いながら断っていると、いずれ誰も誘ってこなくなった。東野さんは無表情で、極意を語ってくれた。

 そんな超天才で最強に腐り狂った東野さんから回ってきたらしい、この「書く」仕事。

 昔から文章を書くことは好きだったし、このコロナ禍で芸人の仕事は順調に減ってきている。なるほど、まあまあ書けるんだね……一人でも多くの人にそう思ってもらえたら嬉しい。

 僕が10代の頃から、世間では自殺者が増え始め、今も社会問題のままだ。

 私なんて生きている意味がない、生きていたって仕方がない。そう考える理由はいろいろあるかもしれない。環境だったり病気だったり歴史だったり事件だったり事故だったり。

 けど、生きているだけで意味はある、と僕は思っている。

 どんな人間でも、生きているだけで誰かに何かしらの影響を与えている。その人が普段の仕事などでついている役割には代わりがいようとも、現在進行形でどんな人間でも生きているだけで価値がある。自分では思ってもいないような人から、または思ってもいないような場面で感謝されることもある。

 天津の木村さん、本当にありがとうございました。

 木村さんにとってはきっとつらい謹慎期間だったろうけど、木村さんのお陰で東野さんの番組に出演でき、その打ち上げで僕の YouTube に東野さんが出てくれることになり、なんとこの本まで書くことができた。今度木村さんに会ったら何も言わずに「ありがとう」とだけ言おう。

 生きていると、棚からぼた餅がふってくることもあるもんだ。

徳井健太(とくい・けんた)
1980年北海道出身。2000年、東京NSCの同期生だった吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。バラエティを観るのも大好きで、最近では、お笑い番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集めている。趣味は麻雀、競艇など。有料携帯サイト「ライブよしもと」でコラム「ブラックホールロックンロール」を10年以上連載している。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw

2020年10月3日掲載

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