藤井聡太二冠の封じ手は最高1500万円で落札 鑑定士に“高いか安いか”訊いてみた

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問題は希少性

 八木氏は「サインの価値は、サインした人の人気や業績に加え、希少性という要素もあります」と解説する。

「藤井さんの封じ手用紙がオークションに出るのは初めてということも、ここまで落札価格が上昇した一因でしょう。今後も藤井さんの封じ手用紙が珍しいものなら、価格が更に高くなっても不思議ではありません」

 逆の可能性もある。被災地を応援するため、藤井二冠の封じ手用紙が頻繁にオークションへ出品されるようなことになれば、価格が下落してもおかしくない。

 ちなみに、これまで八木氏が経験したオークションで、最も印象に残っているのは坂本龍馬(1835~1867)の手紙だという。

「江戸にいた龍馬が、土佐の姉に宛てた手紙でした。龍馬は故郷に、幼なじみがいました。許嫁のような関係だったのですが、千葉道場・千葉定吉(1797?~1879)の次女、さな子(1838~1896)を好きになってしまうのです」

 この手紙で龍馬は、さな子を「器量もよく、腕っ節も強い」と褒め称えている。故郷の幼なじみと比較した部分もあるという。

 結局、龍馬はさな子を婚約者としたのだが、後には、おりょう(註:楢崎龍:1841~1906)と結婚してしまう。

肉筆の魅力

 歴史的史料としての価値が非常に高いことは言うまでもない。何よりも手紙を読むと、龍馬の素顔がいきいきと伝わってくる。

「龍馬の手紙は2004年、東京古書会館のオークションに出品され、1633万円で落札されました。龍馬の手紙が約1600万円、藤井二冠の封じ手用紙が最高で1500万円となったわけです。鑑定士という客観的な立場を離れ、あくまでも個人的な感想を申し上げれば、藤井さんの封じ手用紙は、私なら手を出す価格ではありません」(同・八木氏)

 先に紹介した青野九段のコラムには、封じ手用紙のオークションに参加した経験を振り返った箇所がある。

《通常は落札価格が2~3万円で、最高は私の知っている限りでは15万円くらいだった》

 なぜサインを買い求める人がいるのか、八木氏に訊いた。

「仮に織田信長の直筆書簡を所有しているとしましょう。信長は1582年、本能寺の変で自害しました。ところが彼の肉筆を見ると、まるで今も生きていて、自分の傍にいるかのように思えてくるはずです」

 肉筆というのは、それほどの“生命力”を感じさせるのだ。確かに文豪の原稿用紙を見ていると、そんな気になることがある。

「信長の書簡からは、彼の息づかいが聞こえてきます。そして藤井さんの封じ手用紙を落札した方も、きっと同じ気持ちになると思います」(同・八木氏)

週刊新潮WEB取材班

2020年9月29日掲載

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