「リニア中央新幹線」…JR東海と静岡県との対立から鉄道のトンネルとは何かを考える

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地下トンネルの断面は四角形または円形のどちらかがほとんど

 いっぽう、地下トンネルの断面は四角形または円形のどちらかがほとんどだ。四角形のトンネルは駅ではよく見られ、駅と駅との間でも概して開業時期の古い地下鉄に多い。山岳・海底トンネルでは少数派となる円形のトンネルは地下鉄では多数派を占める。

 駅と駅との間では1970年代以降に開業した地下鉄の大多数で採用されているし、一部の駅では線路だけでなく、ホームの周囲の壁まで円形になっていてすぐに気づく。

 断面の形の違いはトンネルの掘り方の違いに由来する。

 馬蹄形のトンネルは、人間が作業現場となる場所に赴いて実際に土や岩を掘削して建設を進めていく。

 言うまでもなく、土木技術が進歩したいまではダイナマイトによる発破や大型の掘削機を用いて建設工事が行われている。掘り出された土や岩の排出はダンプカーやベルトコンベアで行う。

 山岳・海底トンネルや地下トンネルに見られる円形のトンネルはシールドマシンと言って円筒形の大型機械によって掘られたシールドトンネルである。

 シールドマシンの先端には頑丈な刃が何枚も付いていて、刃を回転させて山や海底、地下を掘りながら、少しずつ前に進んでいく。人間はシールドマシンの後方にいて、この装置を前に進めたり、シールドマシンから排出された土を地上へと運び出したりといった作業に従事する。

 地下トンネルに多い断面が四角形のトンネルの掘り方は、いままで挙げたトンネルとは似ても似つかない。

 まずは地上から大きな穴を掘り、続いて穴の中にコンクリートで箱形のトンネルを築き、完成したら上部を埋め戻す。

 穴を掘る量をできる限り少なくしたいので、トンネルの断面には馬蹄形や円形ではなく四角形が採用された。このようなトンネルを開削(かいさく)トンネルという。

人家が密集した大都市ではシールドトンネルがいまのところベストの選択肢

 トンネルの建設工事では実際に掘る場所の地質が鍵を握る。

 日本は地質が悪いので、どこにトンネルを建設するとしても苦労が多い。掘削そのものも大変だが、同じように掘削した後の土が崩れないようにすることも大切だ。

 馬蹄形のトンネルはトンネルの掘り方としては最も古いが、地質の悪い場所にいまでも対応している。

 掘っていく際にはトンネルの断面のすべての場所から一度に進めるように思われがちだ。しかし、これでは掘った先から土が崩れしまいやすいので、地質の悪い日本ではあまり採用されていない。

 代わりに多くはトンネルの断面をいくつかに分割して掘っていく。大きく分けて3種類ある。

 地質がよく、手間があまりかからない順に紹介すると、上下二段に分け、最初に上半分から掘り、上半分の土を支えた後に下半分も掘る上部半断面先進工法。

 下段の真ん中部分から小さなトンネルを掘り、続いては上半分に進み、最後に残った下半分全体を掘る底設導坑(ていせつどうこう)先進上部半断面工法。

 下半分の左右それぞれから掘り、続いて上半分のアーチ周りへと進み、残った部分は上半分、下半分の順に掘る側壁導坑先進上部半断面工法だ。

 最後に紹介した側壁導坑先進上部半断面工法は地質が劣悪な条件で採用される。

 シールドトンネルは掘削と同時に山を支えているので、地質の悪い場所での建設にも最適だ。

 けれども、シールドマシンの消耗は激しく、せいぜい数km程度の掘削にしか使えないので、長大になりがちな山岳・海底トンネルには採用しづらい。

 地下トンネルの場合、シールドマシンを地上から地下に降ろすために垂直のトンネルをそれこそ1km程度の間隔でいくつも掘っているから導入できる。

 しかも、シールドマシンで作業しているときの騒音は、ダイナマイトはもちろん、ドリルを使用したときよりも低いので、人家が密集した大都市ではシールドトンネルがいまのところベストの選択肢だ。

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