巨人、育成4年目「松原聖弥」はパーラのポジションを奪えるか【柴田勲のセブンアイズ】

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 巨人が8月25日からのヤクルト(神宮)、中日(東京ドーム)6連戦を5勝1敗と大きく勝ち越した。2位・DeNAとは5・5ゲーム差(31日現在)となった。前回、今コラムで、「巨人、いまが我慢の時」と記したが、独走態勢への糸口をつかんだのではないか。

 菅野智之、戸郷翔征に続く先発「第三の男」の出現が待たれたが、29日の中日戦に先発した今村信貴が7回を1失点の好投で今季2勝目を挙げた。自らタイムリーを放って、これが大量点の呼び水となった。

 8月に菅野、戸郷以外で先発投手が勝ったのは1日の田口麗斗以来だというから、まさに「第三の男」の出現が待たれていたわけだ。走者を出しながらもよく粘った。28日の同カードに先発した田口がいまひとつだっただけに、今村の白星は9月1日からの13連戦を前に収穫だったと思う。

 田口、やはりリリーフから先発に回って悩んでいるのかな。リリーフの時は1~2イニングを力で押していた。先発は当然のことながら長いイニングを意識する。配球や抜きどころを考えながらのマウンドとなる。

 以前は低めへよく制球されていたのだが、いまは苦しんでいる。力み過ぎている。もっと楽に投げたらどうか。ブルペンではそれなりにいいはずだ。もったいない。

 2年目、20歳の直江大輔投手が30日に2度目の先発をした。三回まではパーフェクトだった。結局、四回途中1失点での降板となったが、やはりいいものを持っている。ストレートにカーブ、スライダー、そしてフォークと変化球も多彩だ。切れもあった。マウンド上では落ち着き払っている。

 2点リードをしていた場面での交代となった。無理をすれば投げられたと思うが、ベンチはスパッと決めた。代えやすい。これが菅野ならそんなことはできないが、なんせ2年目だ。次を考えたのだろう。

 今後の課題は経験であり、コントロールをもっと磨くことだ。特にフォークだ。

 2年目の戸郷がブレークしているが、彼は左打者へはシュート気味、右打者にはスライダー気味のフォークを持っているが、これがしっかりと決まる。カウントを取り、さらには勝負球となる。真っすぐ落ちるだけのフォークではない。上原浩治投手にもその傾向があったと思う。

 戸郷がこれをマスターしたことによって投球の幅が大きく広がった。体づくりももちろん大事だが、常にコントロールの意識を頭に入れて前に進んでほしい。今回も初勝利はお預けとなったけど、焦ることはない。

 丸佳浩もようやく本格復調してきた。これまでは体が突っ込んでいたが、いまは引きつけて打っている。変化球にも対応しているし、なによりボール球に手を出さなくなった。甘い球を見逃さずに好球必打を心がけている。

 坂本勇人もよくなってきたし、この2人が戻ってくれば得点能力は上がる。岡本和真は本塁打、打点でトップに立っている。以前に比べて好不調の波が少なくなっている。

 巨人のレギュラーは坂本、丸に岡本の3人だけど、原辰徳監督は予告先発を利用して選手を起用している。控えでベンチにいる選手の顔ぶれを眺めると層が厚いことがわかる。野手では増田大輝、中島宏之、吉川尚輝、北村拓己、吉川大幾、重信慎之介、投手では大江竜聖、鍵谷陽平、高梨雄平らだ。しかも若手を抜擢するとすぐに結果を出す。

 レギュラー3人が不調に陥ったり、ケガ人が多少出ても心強い。原辰徳監督はファームから上がってきた若手をすぐに使う。「旬」を大事にする。しかも結果を出すケースが多い。

 例えば、松原聖弥外野手、いい働きをしている。ご存じの通り、育成出身の4年目だ。7月25日のヤクルト戦に一軍初出場、代打で二塁打を放った。これがいいきっかけとなった。8月18日の阪神戦からスタメン出場を続けている。

 打撃面では小柄ながらパンチ力があるし、なかなかしぶとい。選球眼もよくバットの出もスムーズだ。最近は2番・右翼で出場しているが、27日のヤクルト戦でライトゴロを完成させたように肩も強い。バントや犠牲フライなど状況に応じたプレーでベンチの要求にも応えている。しかも俊足だ。

 2018年にはイースタン打率トップになっている。潜在能力は高かったのだろう。一言で言うと、使ってみたいと思わせるだけのものを持っている。ヘラルド・パーラがケガで戦列を離れているが松原が大いに頑張っている。パーラ不在の穴を埋めるのではなく、奪うくらいの気持ちでプレーしてほしい。

 1日から13連戦、1日置いて9連戦。今年はどこのチームも過密日程だ。巨人を追いかけてくるとすれば、やはり底力のあるDeNAだろう。そのDeNA戦から13連戦が始まる。

 幸いなことにエンジェル・サンチェス投手の復帰が近そうだという。7月25日のヤクルト戦(神宮)当日の練習中に右肩の違和感を訴えて登板を回避した。約1カ月半ぶりのマウンドとなるが、明るい材料のひとつだ。

 さて、どうやって連戦を乗り切るのか。独走態勢に入れるか。注目していきたい。

柴田勲(しばた・いさお)
1944年2月8日生まれ。神奈川県・横浜市出身。法政二高時代はエースで5番。60年夏、61年センバツで甲子園連覇を達成し、62年に巨人に投手で入団。外野手転向後は甘いマスクと赤い手袋をトレードマークに俊足堅守の日本人初スイッチヒッターとして巨人のV9を支えた。主に1番を任され、盗塁王6回、通算579盗塁はNPB歴代3位でセ・リーグ記録。80年の巨人在籍中に2000本安打を達成した。入団当初の背番号は「12」だったが、70年から「7」に変更、王貞治の「1」、長嶋茂雄の「3」とともに野球ファン憧れの番号となった。現在、日本プロ野球名球会副理事長を務める。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年9月1日掲載

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