なぜ僕たちは「社交ダンス」に魅了されたのか 周防正行×二宮敦人

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「異性と接して踊るのが楽しい」と言えない風潮

周防 ところが、取材していくと、みんな「ダンスはスポーツだから素晴らしい」って言うんですよ。どうやら歴史的に、ダンスホールとかダンスそのものがいかがわしいものだとされていた時代の記憶がそう言わせているみたいだと、だんだんわかってきた。となると、僕の知人の中にも、言わないだけで社交ダンスを踊っていた人がいたかもしれない。でも、「ダンスはダンスだから素晴らしい」とか「異性と接して音楽を感じて踊るっていうことは楽しいんですよ」っていうふうに言えないと変だろって思って「Shall we ダンス?」の骨格がどんどんできていったんです。

二宮 監督も踊ったりしましたか。

周防 半年習いました。シナリオを書くうえで、何が楽しくて何がつらいとか、何が恥ずかしいとか、実感したかったんですよ。僕が踊った相手は全員先生だったんですが、ほんとうに気持ちよく運んでくれて。自分がこんなふうに動けるなんて、っていう面白さがありましたね。僕はどうやら美しいものが大好きなんです。「ファンシイダンス」(1989年)っていうお坊さんの映画を撮りたかったのも、お坊さんの所作が美しかったから。川崎に住んでいたので、鶴見の總持寺に朝のお勤めを取材で見に行ってたんですよ。クッとかかとをあげてツツっと進んでふっと下ろして、見台(けんだい)を、経本を読む人の前に置く。その所作がすごく美しい。これを100人規模の修行僧で見せたいなっていうのが、あの映画を撮る動機でした。

二宮 なるほど。

周防 だから社交ダンスも一流のプロのデモンストレーションを見るのが大好きでした。ものすごく美しい。

周防正行(すおまさゆき)
1956年東京都生まれ。立教大学文学部在学中より映画監督を志す。96年、社交ダンスブームのきっかっけとなった「Shall we ダンス?」で第20回日本アカデミー賞13部門独占受賞。最新作「カツベン!」DVD発売中。

二宮敦人(にのみやあつと)
1985年東京都生まれ。“一橋大学競技ダンス部”卒。2009年に作家デビュー後、フィクション、ノンフィクション問わず作品を発表している。近著に『紳士と淑女のコロシアム「競技ダンス」へようこそ』(新潮社)。

週刊新潮 2020年7月30日号掲載

特別対談 「周防正行(『Shall we ダンス?』監督)×二宮敦人(『紳士と淑女のコロシアム「競技ダンス」へようこそ』著者) めくるめく『社交ダンス』の世界」より

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