不運の将「高橋由伸」「金本知憲」を再評価すべき“これだけの理由”

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 セ・リーグ連覇に向けて開幕から順調な戦いぶりを見せる巨人。チームを率いる原辰徳監督はこのまま優勝となると監督として通算9度目のリーグ制覇となり、水原茂、藤本定義と並んで歴代3位タイとなる。川上哲治と鶴岡一人の持つ11回のリーグ優勝も射程圏内と言えるだろう。その一方で監督として指導者として結果を残せなかったのが前監督の高橋由伸だ。引退した直後の2016年から3年間指揮を執ったが、2位、4位、3位とAクラスには2度入ったものの、リーグ優勝を果たすことなくユニフォームを脱いでいる。ちなみに巨人の専任監督でチームを優勝に導けなかったのは堀内恒夫と高橋の二人だけである。長いチームの歴史の中でも“不名誉な記録”と言えるだろう。

 しかしながら、現在の巨人の戦いぶりを見ていると、監督としての高橋を見直す要素が出てくるのも確かである。まず評価されるべきはチームの世代交代を進めたところにある。

 特に大きかったのが岡本和真の抜擢だ。それまで巨人のファーストは阿部慎之助、サードは村田修一でほぼ固定されていたが、村田を2017年限りで自由契約とし、阿部のスタメン出場を大幅に減らして岡本の出場機会を作ったのだ。

 他にも大城卓三、吉川尚輝、田中俊太、重信慎之介などが高橋監督時代に一軍での出場機会を増やし、現在の戦力となっている。ポジションは奪うものだという考え方もあるが、将来のチームを担う可能性が高い選手には、意図的に与えるというのも一つのやり方であり、原監督が坂本勇人を抜擢した例も同様と言える。

 もし目先の成績にこだわって村田と阿部に頼っていたら岡本の開花は確実に遅れ、現在のような不動の4番となるまでにはまだまだ時間がかかっていた可能性が高いだろう。また村田だけでなく、投手では内海哲也、杉内俊哉、山口鉄也、野手では片岡治大、脇谷亮太、松本哲也といった実績のある選手を整理し、若手や他球団から獲得した選手を起用しやすい土壌を作った点も評価できるポイントではないだろうか。

 もう一人高橋と同様に指導者として結果を残せなかったが、評価を見直したいのが阪神の前監督である金本知憲だ。監督としての成績は4位、2位、6位と高橋以上に成績が乱高下しており、エース候補だった藤浪晋太郎を懲罰的に続投させるなど、批判の的となるような出来事もあったが、球団の体質を変えようとしていたことは事実である。

 まず、金本が目指したのがドラフトでエースや4番の候補となるスケールの大きい選手を獲得することだ。それまでの阪神はとにかく即戦力志向でまとまりのある選手を多く指名していたが、金本の監督就任が決まってからは東京六大学で最多安打記録を塗り替えた高山俊、大学日本代表で4番を務めた大山悠輔を指名し、それまでの流れを大きく変えている。

 高山は新人王を獲得してからは伸び悩み、大山もまだ完全に中軸となったとは言い難いが、この二人がもしいなければチームの方針は大きく変わることはなかっただろう。その後のドラフトでも清宮幸太郎、藤原恭大、奥川恭伸とスケールの大きい選手に入札しており、昨年は奥川を外しても1位から5位までをスケール型の高校生で揃えるなど確実に変化がみられる。球団の意識を変えたという点はもっと評価されても良い部分だろう。

 高橋、金本両者にいえる共通の反省点としてはまず選手とのコミュニケーションがあるだろう。金本は前述した藤浪の起用法が大きな議論を呼び、高橋も二軍暮らしが続いていたゲレーロが面談を拒否するなど監督として、求心力を欠くことが度々あった。

 ただ、特に高橋の場合は引退して即監督となったことで、選手との関係性を築くのが難しい面もあっただろう。もう一つは球団首脳、編成との関係性構築だ。金本は選手獲得においてもかなりの権限を与えられていたとみられるが、急激に改革を推し進めたことで球団内に反対勢力も生まれたことが予想される。

 逆に高橋は、現場にとって必要な戦力を、編成側に上手く伝えられているのか疑問に感じるような選手補強が度々見られた。このあたりの現場以外に対する影響力を発揮するには、やはりまだ経験が足りない部分もあっただろう。

 しかし、原監督も第1政権ではわずか2年で監督を退任しており、その時の経験を生かして今の地位を築いたことは間違いない。高橋、金本ともに指導者としても光る部分があっただけに、再び監督として指揮を執るチャンスがあれば、名将となる可能性は十分に残されているのではないだろうか。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月23日掲載

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