「クセ」のある自衛隊員ほど靖国参拝に魅かれる内情… 防衛省は敏感に

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“英霊”に親近感を覚える 自衛隊員と憲法が定める政教分離

 戦没者の魂を祀るために建立された東京・九段の靖国神社。
 毎年、8月15日の「終戦記念日」や10月中旬の「秋の例大祭」には、国会議員による参拝が必ずニュースになるが、それもこれも日本国憲法に「政教分離」の規定が置かれているからである。
 中曽根康弘元首相や小泉純一郎元首相の参拝に対するものなど、これまで幾多の政教分離訴訟を提起されてきた靖国神社。しかし、この神社との関係に頭を抱えるのは、何も保守系政治家だけではない。

「自衛隊ですよ。いくら“自衛隊は戦力ではなく実力”と言ったところで、やはり自衛隊の内部には靖国神社に祀られている“英霊”に親近感を覚える人間は多いんです。ところが憲法20条には〈国およびその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない〉〈何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない〉と政教分離が厳格に定められており、自衛隊も公式に靖国神社に参拝することはできない建前になっています」

 と、防衛省関係者。

「無宗教の千鳥ヶ淵戦没者墓苑であれば、最高指揮官たる総理大臣ばかりか、天皇陛下も御親拝される公式な慰霊追悼の場です。自衛隊としても何のわだかまりもなく参拝しているのですが、思想的に『クセ』ある人たちはどうしても靖国に魅かれるようです。自衛隊が部隊で靖国神社を参拝なんてことになったら、当然、リベラル陣営から袋叩きに遭うでしょうから、内局(防衛省本省)としても敏感になっているんですよ」(防衛省関係者)

 実際、陸上自衛隊は1963年の陸上幕僚通達において、「神祠、仏堂その他宗教上の礼拝所に対して部隊参拝を行うことはできない」と定めており、一分の隙も許さないという“政教分離”へのこだわりが伝わってくる。

 しかし、上層部の気概も虚しく、自衛隊の現場の政教分離は“隙だらけ”なのだという。

早朝の神社の階段を駆け上がる姿が

「最近も、陸上自衛隊のある部隊で、神社への参拝を行っていたことが発覚し、問題になっているんです」

 とは、陸自の関係者である。

 事実であれば、通達はもちろん、憲法が定める政教分離規定にも抵触することになるが、実際、いかなる“参拝”が行われていたというのか。

「隊員56人が『はだか駆け足』―多賀城駐屯地」

 自衛隊の活動を紹介する「防衛日報デジタル」には、今年2月17日付けで、このような見出しの記事が掲載されている。以下本文を引用する。

「多賀城駐22即機連2中隊は1月10日、新年の伝統行事として、塩竈神社への『はだか駆け足』を実施した。参加したのは隊員56人。神社で部隊と隊員家族の安全を祈願するとともに、裸の付き合いで団結を図るのが狙い。同中隊が編成された昭和38年から始まり、天候にかかわらず毎年行われている。―中略―応援に駆けつけた元隊員と共に参拝し、一年の無病息災と団結を祈願した。その後、境内で太平洋に昇る日の出を望みながら中隊歌を高らかに合唱し、さらなる団結を誓った」

 記事に添えられた写真には、中隊長を先頭に隊員らが上半身裸のはちまき姿で、早朝の神社の階段を駆け上がる姿が写されている。

 先の陸自関係者は、「新年に訓練や行事として部隊で神社参拝する例は、さまざまな部隊で行われていますし、公用車で主要な幹部だけが参拝する例もあります。厳密には通達に反するのでしょうが、公務外の参拝だったと言えば、問題ないという考えなんでしょう。堂々と部隊のホームページで、“訓練始め”と称して新年の神社参りの様子を紹介することもあるくらいですから」

公務中に、神社への参拝を行っていた…

 確かに、塩竃神社への「はだか駆け足」のような“参拝”の場合、休暇を取った上での新年行事という見方もできよう。ところが、

「そんな生易しいものではありません。実際、創価学会や顕正会の会員である隊員らが教官から“神社まで走らせてもらっといて神様に挨拶もできんのか”“お前ら変な宗教やっとるんか”と詰められ、嫌々参拝していたこともありました。隊員の中には宗教上、神社への参拝をしたくない者もいますが、訓練として命じられれば断れるものでもない。自衛隊に入隊して信教の自由を守り通すのは困難なんです」

 さらに、別の防衛省関係者が証言するには、

「半ば、確信犯的に公務中に、神社への参拝を行っていた陸自の機関もあります。しかも、参拝に訪れたのは靖国神社なのです」

 その機関とは、大宮駐屯地(さいたま市)に所在する陸上自衛隊化学学校である。同校は防衛大臣直轄の機関で、核・生物・化学兵器からの防護のための教育訓練が主任務だ。

「靖国への参拝が行われたのは2015年6月17日です。当時の学校長以下、40人弱の隊員(学生)が制服姿で靖国神社を参拝しています。大宮駐屯地からの行き帰りは公用車のマイクロバスを利用し、おそらく燃料代も高速道路料金も国費から支出されている」(同前)。

 この証言を裏付けるように、化学学校内の広報紙(2015年6月号)には、以下の記事が写真付きで掲載されている。

「6月17日、学校長以下職員・学生一同で靖国神社及市ケ谷駐屯地に参拝に参りました。―中略―靖国神社においては、○○(記事内は実名)祭務部長から靖国神社の成り立ちについて拝聴し、事後本殿において参拝しました。国家のために尊い命を捧げられた先人に慰霊し、先人が築いてきた歴史と伝統を引きつぎ、後生へ受け渡していく使命感と責任感を実感しました」
 
 別の内部資料によると、この時の参拝に参加した化学学校の隊員(学生)の2015年6月17日の教育予定は、校外での「精神教育」。

 こういった証言や資料からは、同校が教育の一環として隊員らを靖国神社に参拝させていたことが窺われる。果たしてこの参拝も公務外だったと言えるのだろうか。

週刊新潮WEB取材班

2020年8月15日掲載

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