テレワーク「生産性向上」のウソ 過剰な成果主義が招く「大量クビ切り時代」

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「企業が冷徹になれる時代」

 さらに、各企業がテレワークを導入し、成果主義に傾く中で注目されているのは、雇用の形態だ。

 従来の日本企業の雇用方法は「メンバーシップ型」と言われる。採用したら数年ごとに異動を繰り返して各部署を経験させ、一人前の社員に育てていく。仕事のプロセスを重視し、いわば会社の仲間として雇用する。

 対して、欧米などでは「ジョブ型」雇用が一般的だ。

 これはジョブ・ディスクリプションと呼ばれる職務記述書で仕事内容や報酬を予め明確にし、採用する方法。プロフェッショナルな人材を採るため、基本的に異動はなく、昇給もない。報酬を上げるには、職責の重い上のレベルの職務に就かなければならない。

「メンバーシップ型では成果を上げていなくても、仕事の過程や勤務態度も評価に加味されます。しかし、テレワークではそれらが見えなくなるので、ジョブ型にしてはどうか、となるわけです。やるべき仕事をきちんとできたか、で評価されるので、成果主義と相性がいい」(曽和氏)

 実際、テレワークを推進する企業ではジョブ型で採用するところが少なくない。

 例えば、富士通は、

「国内グループの幹部社員約1万5千人を対象にジョブ型人事制度を導入しました」(広報)

 各企業が成果主義に重きを置き、その上コロナ禍で業績悪化の煽りを受ければどうなるか、容易に想像はつく。

バブル崩壊後と同じ轍

 中川氏が指摘する。

「多くの企業の売り上げ下がる中、評価の低い社員に対して言い出しづらかった“戦力外通告”が言いやすくなっています。コロナを大義名分として、企業が冷徹になれる時代になったのです」

 バブル崩壊後と同じ轍を踏むことになる、とは前出の曽和氏。

「日本企業はバブル崩壊後、90年代から2000年代初頭にかけ、成果主義を導入する企業が増えていきました。しかし、人事評価法などへの不満から、社員同士のチームワークが崩れ、組織が弱体化しました」

 当時、リストラの嵐が吹き荒れたのもご記憶だろう。

「結果、従来の人事評価へ戻した企業も少なくありませんでした。いま、安易にテレワークやジョブ型、成果主義へ移行すれば、日本企業が得意とする社員同士の助け合い、サポート機能が弱くなってしまう。ただでさえコロナ禍が直撃する中、結果として業績悪化、リストラが続出することにもなりかねません」(同)

 テレワーク導入から、成果主義への傾倒、そして大量クビ切りへ――。

 実際、東京労働相談センターでは相談が増えており、

「テレワークのスキルがないために会社を解雇された正社員や、業績悪化のため契約を一方的に打ち切られた派遣社員などの相談が複数寄せられています」(センター所長)

 生産性向上の美名の下、推進が喧伝されるテレワーク。しかしその実、かように日本企業にとっても、サラリーマンにとっても、デメリットが多すぎる。

 感染拡大で緊急避難的にテレワークを実施することには意味があるに違いない。ただ、アフターコロナでも導入を続けるか、多くの企業は迷っているのが実情ではないか。

 自由な働き方を享受する一方で、失われるものもまた多い。“がんばらない”方向に本当に舵を切るのか、熟考が必要である。

週刊新潮 2020年8月6日号掲載

特集「『がんばるな、ニッポン』でいいのか 『テレワーク』で始まる『大量クビ切り』時代」より

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