テレワーク「生産性向上」のウソ 過剰な成果主義が招く「大量クビ切り時代」

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“大量クビ切り時代”

 しかし、テレワーク導入で人事担当者を悩ます難題となるのは、人事評価だ。それに伴い、リストラ候補者が顕在化する。「大量クビ切り時代」が到来しかねない状況が生まれるのである。

 先に登場した人事ジャーナリストの溝上氏は、

「日本の企業では業績評価と行動評価の二つを組み合わせて、賃金や昇格を決めてきました。業績評価では成果物などで定量的に評価し、行動評価では勤務態度や仕事のプロセス、チームワークを発揮する上でどういう役割を果たしたか、などが評価の対象になります。ところが、このコロナ禍で社員の動きが見えなくなり、行動評価をしづらくなってしまったのです。すると、目に見える成果物、数字で評価をする方向に偏りやすくなります」

 そこで最も煽りを受けるのは、いわゆる「働かないおじさん」である。なんとなく会社にはいるけれど、何か成果を生み出しているとは思えないベテラン社員のことだが、

「例えば、彼らは飲みニケーションや休日のゴルフを通じて、上司からは悪い奴ではないと思われている。ただ、テレワークが進み業績評価に偏りだすと、成果を生み出さない社員と単純に評価されることになります」(同)

 社員の能力差はオンライン会議の席で露見する、と溝上氏は続ける。

「Zoom会議ではリアルの会議と違って、誰かが話し出すとほかの人は黙って聞いている。ある企業の副社長に聞くと、オンラインだとそれぞれが意見表明するので、“普段はおとなしいけれど深く物事を考えている”社員がよく見えるそうなんです。逆に“課長のおっしゃる通りですね!”と普段から相槌ばかり打っている人が、実は意見を持たないだけだということもわかってしまう」

必要な人材が低評価に

 単純に、“仕事をしない社員”が可視化されるだけならまだしも、問題は、成果主義に陥ることで、本当に必要な人材までが低評価となってしまうことである。

「チーム内でのリーダーシップや後輩や部下への指導力、成果の出やすい短期案件だけでなく、中長期的な案件も準備している、などといった数字に表れにくい評価がしづらくなってしまうのです」(同)

 前出の中川氏は“ムードメーカー”が評価され活躍する場がなくなる、とこう言う。

「どの会社にもムードメーカーや取りまとめ役など、組織で必要となる存在がいます。そうした人を成果だけで排除するのには疑問を感じます。例えば、今年、プロ野球のロッテがベテランの鳥谷敬選手を阪神から獲得しました。井口監督との信頼関係とか、若手にとっての手本となることなど、所属させる意義は多くあります。それと同様です」

 高い評価を受けるのはホームランを打てるバッター、得点を奪えるフォワードばかり。それでは、似たような人材ばかりが揃い、総合力に劣る薄っぺらい組織になりはしないか。

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