二転三転した「Go To」 “東京差別”がもらたすもの(中川淳一郎)

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「Go Toトラベル」補助金の対象から、東京都民と東京発着の旅行が除外されました。それに伴うキャンセル料を、政府は「補償しない」と言ったのに、反発を受けたら、「補償を検討」ってなんなんですか?

 あのね、あたしゃ、政治の専門家じゃないけど、「決めたことはやる」って、なんでお前たちは言えねーんだよバカ野郎! このキャンペーン自体の是非はさておき、給付金の時も、「困っている家庭に30万円」だったのに、反対する公明党から「連立から離脱するぞ!」と恫喝されたり、メディアが「分かりにくい!」と言ったりしたら「全員10万円」になった。

 今回のキャンセル料にしても、2万円かかる旅費を1万円にできる!と喜んだ都民や旅行会社なんかが「話が違う!」と激怒したら、政府は旅行会社の損失を補償することに。ただね、今回東京が除外されたのって、コロナ感染者数が他道府県よりケタ違いに多いからなんですよ。

 旅行の目的地が震災や豪雨で甚大な被害を受けた場合、「割引されると思っていたのに、満額払わなくちゃいけないならキャンセルしたい!」どころではなく、そこにはもう行けません。そんな場合でも、旅行代理店の契約書の定款にもよりますが、「災害であってもキャンセル料は徴収します」的なことが書かれている。

 特に、今回この割引キャンペーンを使いたかった都民は得したいだけの人でしょ? 今のご時世、都民が全国でどのような扱いを受けているかを思えば、旅行してる場合じゃないと考えるのが常識人ってものでは。

 都民が地方で恐ろしがられ差別されている、といった状況をネットで見て、出張した知人にも聞いてみると、「今日の感染者366人!」みたいな都民がこの時期に地方に大挙するのは、余計な恐怖感を抱かせるだけだと。地方から東京旅行に行った人にしても、「あの人、東京に行ったんだって……」「感染してるんじゃないの……」と近所でヒソヒソ声で噂になるでしょう。

 ただ、私としては、今「東京差別」を全国から受けているだけに、青森県むつ市の宮下宗一郎市長が「人災」扱いをしたことについては覚えておきます。「来ないでほしい」という気持ちも分かりますが、「よくもあの時あそこまで言ってくれたよな、この野郎」とは思いますよ。

 そちらが差別するんだったらこちらもお前らの土地にカネは落とさないぜ、といった「報復の連鎖」が日本国内では今後発生する気がします。コロナが終息した後、恐らく「東京都民を排除した自治体一覧」みたいなリストがネットに登場して、その自治体を叩き、「ふるさと納税」をしないよう呼びかける運動が発生することでしょう。

 話は冒頭の政府批判に戻りますが、全員を満足させる政策なんて無理なんですよ。これは日々、ネットニュースを編集し続ければよーく分かります。何を書いても罵詈雑言が寄せられる。政府に対しても、「キャンセル料払います」的な決定をしたところが、今度は「遊びまくりたいヤツに私の税金を使われたくない」という批判が来ますよ。「政治主導」でとにかく初志貫徹しちゃってくださいよ。あんたたち、一応我々の代表なんでしょ?

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2020年8月6日号掲載

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