北朝鮮のコロナ流行の実態…脱北したのに敢えて北へ戻った”感染源”青年の告白

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自由世界を生きるのに必要な知恵とノウハウが彼にはなかった

 もっとも、同世代の脱北青年たちと話してみると、彼が愚かで荒唐無稽な行動をした動機について、少し分析することができました。

 彼はソウルに近い開城から衝動的に脱北したため、2~3か国を経由して韓国にやってきた脱北者とは、自由に対する渇望の度合いが違います。そして、韓国社会に縁故がなく、配偶者もいない中で、淋しさと孤独が募り、自身の欲求をコントロールできず、性的暴行に至ったということのようです。

 私は1度だけキム君に会ったことがあります。私自身の韓国定着体験を話してほしいと脱北青年の読書会に招待されたのですが、そこで会ったキム君は内気でハンサムな青年でした。泳いで韓国に来たという彼の脱北体験がユニークで、私のYouTubeチャンネルに招待しようと出演交渉したものの、恥ずかしいからと断られました。

 キム君が泳いで北朝鮮に戻ったというニュースを聞いたとき、彼の言葉を思い出しました。

 なぜ韓国に来たのかという問いに、「おぼろげに見える金浦を眺めていると、薄暗い開城は地獄のようでした。そこで友達と一緒に、死ぬ前に素敵な所に行ってみようと思い、漢江を泳いで南に来ました」

 キム君の両親は北朝鮮では比較的豊かな階層で、他の家ではトウモロコシを食べていても、彼はそれなりの食事ができていたとのことです。

 多くの北朝鮮国民が苦しむ飢えを知らず、きらめく灯りを見て衝動的に脱北。しかし、韓国の生活がいくら豊かで自由であっても、自由世界を生きるのに必要な知恵とノウハウが彼にはなく、馴染めないままいたずらに時間が過ぎていったのです。

 彼が集めたのは4万ドルもの大金です。北朝鮮に到着後、保衛司令部に自首する前にこれを隠しておけば、服役後の幸せな人生のために使えると打算が働いたのかもしれません。あるいは賄賂を贈って減刑の便宜を図ることも考えたでしょう。

 もちろん、これは甘い考えです。教化所に行って戻ってきても、所持金はすでに誰かに奪われているに違いない。

 キム君の事例を通じて、韓国政府は脱北者の定着について再考すべきだと思います。北朝鮮と違う社会、価値観の中で生き抜く知恵をつけさせるため、何らかの政策的制度改革が必要なときです。政府が脱北者全員をケアするのは非現実的ですから、脱北者同士が互いに助け合うメカニズムを作るべきでしょう。

金興光(キム・フンガン)
北朝鮮の平壌金策工業総合大学電子工学卒業後、咸興共産大学で博士号を取得。2003年に韓国へ脱北し、2006年には韓国政府内の統一部北朝鮮離脱住民後援会課長を経て現在、(社)NK知識人連帯の代表を務めながら韓国内で対北専門家としてTV、新聞、YouTubeなどで活躍中。http://www.youtube.com/c/NKtv3

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月31日掲載

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