マッチング男女の「ちょっと怖いけど大丈夫」…コロナ流行下で一時の快楽に

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百太郎、真理を悟る

──東急百太郎さんに百発百中されるのは、そういう無個性で流されやすいアラサー女性なんですね。

百太郎:そうです。ちなみに僕、そもそも会う前のメッセージのやり取りで、相手側から「写真送って」って言ってくる女性は全部、切っています。逆に言えば、東急前で会う女性たちはマッチングアプリで男性に顔写真を求めないタイプなんです。

男性の顔にこだわらないというより、自己評価が低くて言い出せないのかなとも思えますね。実際の顔がかわいいかとは関係なく、「心の中の自画像がブス」だから、男性に対してもルックスを要求できない。

──だから、10人以上と会って百発百中になる。前回の隅田川のイチローがメジャーリーグで4割を打つタイプなら、百太郎さんはバッティングセンターの時速80キロのボールを100%ホームランにするタイプですね……。それはそれで、常人にできることではありません。

百太郎:ありがとうございます。ただ、アプリを使いはじめたのは去年の年末からなんですが、実は今年6月ごろからほとんど使わなくなったんですよ。もういいかなって。

──なぜですか?

百太郎:最初は「すげえ」と思っていたんですが、なんだか百発百中すぎて虚しくなって。相手の個性が薄いので、行為の後に会話をするとつまらないし、家に帰ったら顔を忘れてしまいますし……。

もしかしたら性風俗店のほうが、すくなくとも自分がお金を払っているぶんだけ相手の女性と真剣に向き合えるような気さえしてきて。僕は果たして何を求めて東急百貨店に向かうのだろうかと。

──哲学的な問題になってきました。

百太郎:ええ。

──最後にひとつ。百太郎さんは彼女らと、ほぼコロナ流行中(注.正確には日本国内のコロナ流行本格化は3月以降)に会っていますよね?

百太郎:はい。会う前のメッセージの段階で「コロナが怖いからやめておく」と言っていた女性はいましたが、会うところまでいく子はコロナについては意識低いですね。

どの子ともコロナの話題は出ましたが「ちょっと怖いけど大丈夫だよねー」みたいな反応です。僕自身もほとんど気にしてないです。見知らぬ相手と東急前で待ち合わせてから10分後に、円山町で濃厚接触しているわけですし……。

 ***

 コロナ流行下に欲望を追求するなかで、謎の悟りに到達した百太郎。とりあえずコロナの拡散リスクが低くなったという点では、彼がマッチングアプリに飽きたことは朗報なのかもしれない。

安田峰俊
1982年、滋賀県生まれ。中国ルポライター。立命館大学人文科学研究所客員協力研究員。『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA)が第五回城山三郎賞、第50回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。近著に『移民 棄民 遺民 国と国の境界線に立つ人々』(角川文庫)、『性と欲望の中国』(文春新書)、『もっとさいはての中国』(小学館新書)ほか。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月29日掲載

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