三浦春馬さん訃報で三吉彩花さん、生田絵梨花さんへのSNS誹謗中傷を考える

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深い悲しみの中歌いあげた歌手と比較されて…

 一方、乃木坂46の生田絵梨花さんについてであります。彼女は三浦さんが亡くなった当日TBS系で放送の「音楽の日」にて、乃木坂46の楽曲そしてディズニーメドレーを披露する予定だったのですが、過呼吸症状により番組出演を辞退したのです。その日は三浦さんの友人であった城田優さんが出演し、涙を堪えそして曲の終盤には涙をこぼしながら熱唱した姿 に多くの称賛が送られました。

 そこでです、「深い悲しみの中歌い上げた城田優に対して、生田絵梨花はなんなんだ。それでもプロか」という心ない書き込みを目にしました。

 ああいった状況の中で歌い上げた城田さんは本当に立派でした。ただ、それと比較して生田さんを批判するのはいかがなものでしょうか?

 プロだって血の通った人間です。喜怒哀楽によって心がコントロールできなくなってしまったり、さらに体調にまでその影響が出てしまうこともあるということを理解いただけないものでしょうか?

 彼女は今年3月にミュージカル「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド~汚れなき瞳~」で三浦さんと共演をしておりまして、新型コロナ禍が世間を覆い尽くす直前まで仕事をしていた同志なのです。その同志との突然の不慮の別れに直面してしまったら、心の整理がつかなくなってしまうことも仕方のないことだとは思いませんか?

 私なんかと並べては大変失礼に当たりますし、ましてミュージカル出演経験もありませんが、小さな芝居小屋での3日間公演を振り返ってみたいと思います(もちろん主役級ではなく)。

 芝居というのは、たった3日間のために1カ月以上に亘る稽古が行われるのです。その間ほぼ毎日顔を合わせ同じ目標に向かって、時には喜怒哀楽なんかもぶつけ合ったりしていますと、仲間意識が強く芽生え始めて、仲間を超えた同志へとなっていったりするわけです。

「あのいくちゃんがそこまでのことになってしまうのだから」

 それから、それぞれの表現の場が違っていったとしても、あの時の日々はしっかりと脳裏に刻まれているものです。三浦さんと生田さんの場合は上演もおよそ1カ月に及ぶロングランだったのでその絆も相当強かったように思えます。

 さらにTBS系「音楽の日」の翌週、テレビ朝日系「ミュージックステーション」に、乃木坂46生田絵梨花として、一歌手三浦春馬としてそれぞれ出演予定だったと聞きます。もしかしたら久しぶりの共演を楽しみにしていた生田さんを突然襲った絶望が、過呼吸を引き起こしたのかもしれません。憶測で申し訳ないのですが。

 もちろん生田さんの出演を楽しみにしていた視聴者にとって出演辞退は残念だったと思います。生田さんを知りファンであるなら生田さんの心中を察し、「心の傷が癒えたら、また元気ないくちゃんに会えることを楽しみにしてる。今はゆっくり養生してね」と思うはずです。

 さらに「あのいくちゃんがそこまでのことになってしまうのだから」ともファンは思うわけです。

 私も乃木坂46のファンなので、彼女の凄まじいまでの頑張りや努力は他の人よりは理解しているつもりです。「いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46」という乃木坂46のドキュメンタリー映画をご覧いただくとわかるのですが、彼女は乃木坂46とミュージカルを掛け持ちしていて、東京でのミュージカル出演が終わるとその足で大阪に向かい京セラドームで行われている乃木坂46のコンサートに出演したりするわけです。

 しかもそのドキュメンタリー映画が撮影されている時期にたまたまというわけではなく、興行の繁忙期は得てして重なるものですから、コンサートとミュージカルの日程は往々にして被っていたりするのです。

誹謗中傷はなにも生まない

 時間に追われることも大変ではありますが、ミュージカルとコンサート、一字一句交わらないセリフや段取りを把握し、消化して昇華し、表現しているところを目にしますと感嘆せずにはいられなくなります。

 さらに弱音を吐かないどころか「好きでやっていることだし、両立できなかったら意味がない。まわりの方々に迷惑がかかっていないかだけ心配です」と気配りすら口にするような女性です。ですから、しつこいようですがファンとしては「あの仕事を何より大切にするいくちゃんが……」となってしまうわけです。

 とにかくと申しましょうか、締めに伝えたいことは、誹謗中傷はなにも生みません。そして表現者(俳優・歌い手・タレント)は心なきネット民の憂さ晴らしの道具ではなく、それぞれ1人の人間です。もちろんSNSも言葉を用いて表現をする場ですし、言論の自由は保証されるべきだとは思っております。しかし人の心を折りにいく凶器として利用しないでいただきたく思います。

徳光正行
1971年12月生まれ。茅ヶ崎市出身。日本大学芸術学部在学中よりミュージシャンを目指すが、父の病により断念。その後、司会業やタレント業に従事する。また執筆活動にも着手し『伝説になった男~三沢光晴という人~』『怪談手帖シリーズ』などを上梓。4月27日には岩井志麻子氏との共著『凶鳴怪談』を出版。

週刊新潮WEB取材班

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