低迷「中日」の元凶は、地元を重視し過ぎた“スカウト戦略”にあり

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 7月7日のナゴヤドーム、中日とヤクルトの試合で“それ”は起こった。中日の与田剛監督が野手のやりくりを誤り、1点を追う10回裏に苦肉の策で投手である三ツ間卓也を代打で起用するという事態が発生したのだ。この采配、そしてベンチ入りの人数上限を使い切らない首脳陣の失態にファンだけでなく、OBである解説者からも非難の声が集中した。ちなみに昨シーズンもチーム打率はリーグトップ、チーム防御率もリーグ3位ながらシーズン成績は5位に沈んでおり、ベンチワークに問題があると言われている。

 中日の問題点は現場の首脳陣だけではない。編成の面でも大きな問題を抱えているのだ。落合博満GM時代の極端な社会人、大学生選手を重視したドラフト戦略は見直しが図られ、一昨年は根尾昂、昨年は石川昂弥と超高校級の野手を立て続けに抽選で引き当てるなど、将来に向けての整備は進みつつあるように見える。山本拓実、梅津晃大といった若手投手の抜擢が早まっているのも好材料だ。
 
しかし、問題はその前段階のスカウティングの体制にある。落合GMが退任した約1年後の2018年1月からはプロとアマチュアに分かれていた編成部門を統一化。それ自体は決して悪いことではないが、アマチュアスカウトについて地元である中部地区に多く人員を割く体制をとるようになったのだ。

 中日が地元とする愛知県は数多くの名選手を輩出しており、全国でも有数の野球が盛んな地域であることは間違いない。ただ、そのこと以上に中日球団が恐れているのが、そんな地元の人材が他球団で活躍していることにある。1981年のドラフトでは槙原寛己(大府)が巨人、工藤公康(名古屋電気)が西武に指名されていずれも主力投手となったが、中日が2位で指名した浜田一夫(愛知)はプロで1勝も挙げることなく引退している。

その10年後にはイチロー(愛工大名電)を高く評価せずに、オリックスに指名され、そのことに対する地元からのバッシングは相当大きかったと言われている。近年ではソフトバンクで育成選手から日本のエースへと成長した千賀滉大(蒲郡)も中日が逃した地元選手である。

 もうひとつ球団として気にかけているのが地元での人気と、それと連動する親会社である中日新聞への影響だ。落合監督時代には結果を残しながらも観客動員が伸び悩み、ファンサービスの充実を図るなどした経緯もある。地元出身のスター選手が活躍することが、何よりも地元のファンに愛される球団に必要だという考えも理解できなくはない。そのことが岐阜出身の根尾、愛知出身の石川の指名にも繋がったことは間違いないだろう。

 だが、ドラフト戦略はあくまでもチームを強くすることが第一の目的のはずである。石川については将来の中軸候補ということで補強ポイントにも合致していたが、ショートに京田陽太のいる状況で根尾の1位指名については疑問が残る。根尾がもし出身地が東海地方以外であれば、指名を回避していた可能性も十分に考えられるだろう。

 現在、セ・リーグで首位争いを展開する巨人は、地元という意識の低い東京が本拠地ということもあるが、全国に散らばる球団OBから広く情報を吸い上げる体制を整えると発表している。また、比較的地元を重視している広島も2017年には中村奨成(広陵)を1位で指名しているものの、リーグ三連覇を達成したレギュラーを見ても地元出身の選手はほとんどいない。

 日本ハム、楽天、ソフトバンクなど地方都市を本拠地とする球団も、下位指名や育成で地元のことを考えたと感じる指名は見られても、上位指名についてはそのような傾向は見られない。上位指名においても地元のことを重視しているのは中日だけなのである。

 過去を振り返ってみても山崎武司(愛工大名電)、岩瀬仁紀(西尾東→愛知大→NTT東海)、浅尾拓也(常滑北→日本福祉大)のように地元出身で主力となった選手も存在しているが、山本昌(日大藤沢)、川上憲伸(徳島商→明治大)、立浪和義(PL学園)、森野将彦(東海大相模)、井端弘和(堀越→亜細亜大)、荒木雅博(熊本工)など強い時期のチームを支えた大半の選手は地元出身ではない。選手の輩出頻度を考えても首都圏と関西圏は圧倒的に多く、それを考えても地元のスカウトだけを増員するというのはナンセンスである。

 今年1月に行われたスカウト会議でも12人の選手を1位候補として挙げたと報道されたが、そのうちの5人が愛知、岐阜、三重、静岡の東海4県にゆかりのある選手だった。今年の東海圏に有力な選手がいることは確かだが、それでも割合として多いというのは率直な印象である。

 かみ合わないベンチワーク、歪みのある編成戦略、この二つが解消されなければ強い中日が戻ってくる日はまだまだ先になることだろう。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月26日掲載

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